STORY

鍛冶の里に生まれ育った少年キリヒトは、王宮の命により、史上最古の図書館に暮らす「高い塔の魔女」マツリカに仕えることになる。古今の書物を繙き、数多の言語を操って策を巡らせるがゆえ、「魔女」と恐れられる彼女は、自分の声を持たないうら若き少女だった。超弩級異世界ファンタジー全四巻、ここに始まる!

本作こそ本物の”大人のためのファンタジー”

 ”大人のためのファンタジー”、これはもう色んなところで目にしたことのある言葉だと思います。小説で、ゲームで、映画で。
 それが期待に沿わなかったことはありませんか、わたしはあります(笑)ただ暴力的な描写が多いだけだったり、設定が無駄に複雑だったり、文章がとにかく読みにくかったり。そんながっかり読書体験のある人、でもやっぱりファンタジーは大好きで、面白いと聞けば読んでみたくなる人、そんな人にこそ、この「図書館の魔女」はおすすめです。
 読み終わった後の率直な感想は「これはR−18だな」。性的描写はありません。多少戦闘シーンはありますが、えげつない程ではないです。
 それなのにR-18だなと思うのは、「書かれている内容が高度すぎるから」。そう、これは高度なファンタジー、読む人の知性が試されるファンタジー。少し嫌みに聞こえたらごめんなさい。でも難しいんだもん。言語学、政治、他国との戦争、治水…著者の知識量が溢れ出さんばかりに渦巻き、積み重なり、襲いかかってきます。飲み込まれながら、その波に乗れた(ような気がする)ときの楽しさと言ったら!文体も硬質なので、馴染めない人は序盤でギブアップしてしまうかも。

 でも我慢してほしいのです、だって読めば大いなるロマンが待っているから!(後述)

なんてったってロマン

 世界観や骨太なストーリーも大変重要ですが、この本が出色だなと思うのは、ロマンがすごいから。(語彙力)
 主人公は従者の少年と、彼が付き従う少女なのですが、二人のキャラクターと関係性がもう…もう…!
 少女はその知略が他国にも恐れられ、万物に通じ、高い塔の図書館の中からすべてを見通す”魔女”でありながら、なんと”言葉が話せない”。何よりも誰よりも言葉に親しんでいるのに!その頭の中には莫大な情報がひしめき合っているのに!話せないってすごいジレンマ。物語の匂いがぷんぷんします。
 そして一方彼女に仕える少年は、柔和で穏やかな性格でありながら、異常なまでに鋭敏な感覚を持っている(例えば、足を引きずって歩く足音が聞こえただけで、どんな人がどんな風に足を痛めているか分かる、とか)ちょっと変わった子でした。
 そんな少年を見ていた少女は、その叡智によって、「指話」というコミュニケーション方法を編み出すのでした。手話ではお互いが対面になっていないと使えない。でも、繋いだ手の中で指の運行で言葉を伝えるという「指話」なら、受け手が正面を向いたまま、言葉が伝えられる。つまり少女が言葉を伝えたい相手に対して、通訳者が対面になって話すことが可能になるのでした。
 そしてそれはつまり、少女と少年がずっと手を!繋いでいるということ!そしてそして、それは感覚が人一倍どころか何倍も鋭い少年にしか!出来ない技!
 つまり、少年は……少女の……唯一無二の声……!ロマンすごい……!びっくりマーク多くてすみません(笑)いやでもこれをロマンと言わずして何と言いましょうね。

 二人は主従関係にありますが、孤独な生い立ちという共通の背景もあり、あらゆる情愛を含んだ”信頼”で分ち難く結ばれているなあ、お互いがお互いのために良かった出会いだなあ、と(フィクションなのに)しみじみ思うのです。すごい。

 山里での最後の一日が明けようとしている。
 少年は暗い部屋の中、すでに目を覚ましていた。むくりと身体を起こすと、むき出しの腕に粟立ちを生じ、襟元から湯気が上がった。目をこすり、声もたてずにひとつ小さなあくびをした。そしていちど伸びをすると、手を回して後ろ髪を結い直した。
 薄い上掛けを足下にたたみ寝台を整えて、床の草履を足で探った。両足のゆびが鼻緒に収まると、少年は音もなく立ち上がって裁付袴の腰紐を絞りながら部屋を出て行く。粗末な山小屋で部屋には扉などなかった。(P12)

 ーーキリヒト!
 マツリカが鋭く指を打った。
 キリヒトが振り返った。それは一瞬のことだった。
 だがマツリカはその時にキリヒトの顔に浮かんでいた、なにか物言いたげな、どこか悲しそうな、まるで悪事を働きながら言い訳が思いつかずに困っている子供のような表情を目に留めた。時が止まったように、その面持ちがマツリカの目に焼き付いた。マツリカの初めて見た、キリヒトが初めて見せた、本当に悲しそうな顔だったのだ。
 それでもキリヒトはうすく笑っていた。それは悲しげな、切ない笑顔だった。
 マツリカはその後いつまでも、この悲しげな笑顔を忘れることは出来なかった。(P534、535)

まず始めに、物語の最初の一文から。この描写だけで、少年が質素な暮らしをしながら、無駄のない動作を以て自分を律していることがよく伝わります。
静かな山での最後の一日、そしてここから始まっていく、色鮮やかで、苦みや弾けるような喜びをたっぷり含んだ少女との物語が始まっていくのです、よ!

そして二番目には、あまり書くとネタバレになるので控えますが、上巻の終盤にかけての盛り上がりがとても好きで。その始まりの場面から。読んだ人なら、この興奮を共有できるはず…!

夜の写本師 乾石智子

共通点はずばり、大人向けのファンタジー、であるところ。図書館の魔女が難解なことが理由とするならば、この夜の写本師はエグい描写が多いから!明快ですね。図書館の魔女とは少し違う、どろっとねっとりしてるけど、ロマンもすごい。時間を超えた男女の愛憎劇と、ハリポタみたいな魔法に関する設定の細かさ、本好きならうきうきしちゃう写本の様子。文体に慣れるのに少し時間がかかるので、作者の別シリーズは読んでいませんが、導入編として、ぜひ本作をお勧めします。

GOSICKシリーズ 桜庭一樹

図書館の魔女を読みながら「似てるな…」と思ったのがこのGOSIKシリーズ。アニメ化等もされているので、知名度は断然こちらの方が上でしょうね。20世紀初頭のヨーロッパの小国を舞台に、ヴィクトリカという美少女と彼女にこき使われる日本人留学生の久城一弥くんが難事件を解決していくという探偵もの。ヴィクトリカの偉そうな感じがマツリカに通じるのと、その知性、安楽椅子探偵に興じる様子が似ているなと思うし、女の子に振り回される一弥くんとキリヒトも似てると思うのでした。なのでついつい、違うと分かっているのに、脳内でマツリカが金色の長髪に思えてしまって仕方なかったです。実際のマツリカは黒髪のおかっぱだよ!

文庫本にして四巻、ハードカバーは上下巻、どちらも諦めたくなる程分厚いのですが、我こそはと思う方は是非お試しください…!

「烏の伝言」は外伝的立ち位置で、登場人物がことごとくおっさんばかりなので違う意味で読むのを諦めたくなりますが、本編との絡みはばっちりあって、予備知識なく読むととっても楽しめると思います。こちらもぜひどうぞ。
あとは、発行元の特集ページも愛が詰まっていて大変素敵なので、もう少し本の情報をゲットしてから読むかどうか考えたい…という人はチェックしてみてください。

http://kodanshabunko.com/librarywitch/index.html
http://kodansha-novels.jp/1308/takadadaisuke/index.html
https://ddnavi.com/news/296911/a/ (ダヴィンチニュース、「それですーーーーー!」ってなるぐっとくる解説!)