白鳥異伝

Mirror Sword and Shadow Prince

世界の果てに分たれた幼なじみたちの物語

STORY

双子のように育った遠子と小倶那。だが小倶那は"大蛇の剣"の主となり、勾玉を守る遠子の郷を焼き滅ぼしてしまう。「小倶那はタケルじゃ。忌むべきものじゃ。剣が発動するかぎり、豊葦原のさだめはゆがみ続ける…」大巫女の託宣に、遠子がかためた決意とは…?神代から伝えられた「力」をめぐって、「輝」の未裔、「闇」の未裔の人々の選択を描く、ヤマトタケル伝説を下敷きにした壮大なファンタジー。

勾玉三部作とは?

日本中の少年少女を古代ロマンの渦に巻き込んだ記念碑的作品。このサイトでも取り上げる「空色勾玉」と、取り上げないけどすごく面白いので絶対読んだ方がいい「薄紅天女」が残りの二作品です。登場人物は一つの作品の中に収まりますが、同じ世界の異なる時代を切り取っている三部作です。愛。

KEYWORD

ふたりの魅力:女性らしさの詰まった女の子

 空色勾玉のときから時代は下り、神さまではなく人が統治をする時代になりました。神さまの存在感が希薄になった代わりに、白鳥異伝は三部作中でも最も恋愛要素の濃い、きゅんきゅんしてにやにやして布団だったら枕を叩きたくなるむずむず感!が楽しめます。そんな白鳥異伝だからこそ、主人公のふたり、遠子と小倶那の魅力が大きなポイントとなっています。
 まず、主人公の遠子。少女でありながらも女性らしさ、女性性がよく描かれているところが好きです。女性の持ついいところと悪いところ、どちらも併せ持っていて、とても人間らしい(笑)直情的で思い込みが激しく、へこたれるけど芯は折れない。
 ”女性は強い”とよく言われますが、遠子はまさにその女性らしい強さを体現していると思います。

ふたりの魅力:途轍もない業を背負う男の子

 幼なじみのもう一人は、ものすごくハードな内容をさらっと児童書で扱うな…と感じざるを得ない業を背負った男の子。草舟に乗せられ川に流されていたところを遠子の母に救われそれ以来遠子の家で養われている、もらわれっ子の小倶那は、ある日国を統べる大王の皇子の影武者として見いだされ、宮に行くというシンデレラストーリーを歩み始める…と思いきや、実はその先に昼ドラも裸足で逃げ出すほどのドロドロさが待ち受けているのです。
 小倶那がその出生の秘密を知るシーンで「生まれてきてはいけなかったのかもしれない」と考えるシーンがあるのですが、なんて業を主人公に負わせるのか!荻原さんすごい。攻め攻め。そんな悲しみや儚さを背負って、それでも優しさを失わない小倶那は読み手に儚げな印象を与えますが、遠子にせまるときには急に男の子らしくなるんです。いつも強気な遠子がそれにたじたじになるんです。そのギャップに見事にやられました。荻原さんすごい…(しみじみ)

CHARACTER

三野の里の住人

遠子(とおこ)

本作の主人公。それゆけまっすぐ娘、小倶那のことを愛するあまり、変貌してしまった小倶那を殺すという大胆すぎる決断をするほどにまっすぐな気性。

「あの子を剣の主から解き放つの。これはあの子の清めなのよ。そうしてはじめてわたしも解き放たれる。この思いが天へ帰るのを見ることになるのだわ」

小倶那(おぐな)

本作のもう一人の主人公、元捨て子という出自からか引っ込み思案でおとなしい性格。王の息子の影武者として王宮に見いだされるが実は王の実子だった、というシンデレラストーリーを歩むのかと思いきや、王や兄に疎まれ、故郷である里を焼き払いに帰ってきてしまうというどこまでも悲しく辛い運命を背負う薄幸の男の子。なよっとしているけどやるときはやるよ。

「だれかに……だれでもいいから、ぼくを止めてほしかった。ぼくにできないことをやってほしかった。なのにほかでもない遠子が来てくれた。だから、こんなにうれしいことはないんだ」

明姫(あかるひめ)

三野の里の権力者の娘。いずれは宮に仕えるために…と育てられ、 勾玉に光を宿すことのでき巫女姫さま。使命感や責任感が人一倍強い。満を持して大王に仕えるためにまほろばに向かうが…。悲しくも美しい愛を選ぶ、悲劇のヒロイン。

象子(まさこ)

明姫の妹。幼いころから姉と比較され続け、劣等感とそれをごまかすためのプライドの高さを持つ。遠子と同い年で何かと反発しあうが、最終的には良き友達に。素直になれないいい子なんです。

まほろばの住人

大碓命(おうすのみこと)

王の息子。王の命令により分裂する国々を統治するために活躍する美男子。王の后を見つける為三野の里にやってきて明姫に出会い恋に落ちる。あと自分の小さなころにそっくりな 小倶那とも出会う。 小倶那のことも可愛がるが、最終的に彼らの歩む道は分かたれてしまう、悲劇のヒーロー。

「それでもわたしは、二度とあなたを腕の長さより遠くへやるつもりはないのだ。ついてきてくれますか?汚名を着ることになっても」

大王(おおきみ)

まほろばを総べる王様で絶大な権力を持つ。 大碓命のお父さん。怖い人だけど、中盤で遠子と出会い、大王×遠子ルートに突入しかけて読者をざわつかせるおちゃめな一面もある。(ちなみにわたしはそのルートの行く末も見てみたいと強く思う派です(真顔))

その他

菅流(すがる)

小倶那を倒す旅に出た遠子&象子が出会った青年。ちゃらいけど子供とお年寄りにはめっぽう弱いというただの好青年。喧嘩っぱやく、友情に篤く、典型的な男の子。遠子のことをお子様扱いして優しく見守る、やっぱり好青年。

豊青姫(とよあおひめ)

この人絶対小倶那に惚れてしまったよね。

七掬(ななつか)

まほろばにやってきた小倶那の面倒を見る師匠。あたたかくて優しい。サバイバル力が著しく高く、野に入り得物をしとめてご飯をつくる達人。七掬のつくるお鍋が食べてみたい。

百襲姫(ももそひめ)

大王の妹、圧倒的狂人。

SCENES

「わたくしは大碓皇子様に出会い、このかたを愛しました。その自分に決して後悔はいたしません。今の今も、皇子様を愛することが人として正しいことだった と信じております。そのことの証としてだったら、この場で死ぬこともできます。さだめをまっとうしなかったことの非を認めてではなく、自分で自分の心を捜しあてた者の正しさのためでしたら、私は喜んでこの命をさし出しましょう」(P162より)
 
「けれどもわたくしには、あの声を聞いたことで、すべてが異なって思えるのです。小碓命は国造である兄を殺め、わたくし自身さえ焼き殺されそうになったというのに、なぜわたくしは――」
 豊青姫は長くふるえるため息をついた。
「――あの人のために泣きたくなるのでしょう」
 いよいよ遠子は驚きあわてた。豊青姫は事実静かに泣きはじめていた。
「あの声が忘れられないのです。あれほどよるべのない声を、まほろばの皇子たる人がどうしてもっているのでしょう。群れからはぐれた鳥よりも、枝を離れた 木の葉よりもいたましい。何を失って、あれほどに望みをなくしたのでしょう。人はそれでは生き続けることはできません」(P61より)
 最初、それはなにごとも起こさないと見えた。遠子が失望しそうになったこと、突然勾玉の中心にかすかな点のような光がともった。それからはあっというま だった。みるみるうちに輝きは広がり、冴えわたり、遠子の手の上で燈台よりも明るく部屋を照らす光源となった。その色は純白。あわだつ滝の白。陽射しを浴 びた雪の白。銀よりも清浄にきらめきわたる白だった。
(中略)
「そなたが勝ったようだな。いいだろう、そなたはその玉を持つがいい」
 大王はゆっくりと言った。遠子がうれしさに表情をゆるめたとき、さらにまた言った。
「だが、そなたをここから帰しはしない。宮に召そう。明姫にかわる者として、そなたはわしのもとにとどまれ」
 ほおにのぼった血が少しずつひいていった。遠子はすぐにはのみこめず、まじまじと大王を見た。
「どういうことなのです」
「妃にすると言っているのだ」大王は答え、遠子がはじめて見る笑みを浮かべた。
「最初から、明姫ではなく、そなたに会えばよかったのだ。三野はつぶされずにすんだかもしれぬものを。そなたであれば、わしは苦もなくひかれたものを。その勾玉でわしの心を満たしてくれ。そなたにならばできるはずだ」
 遠子は予想をこえたなりゆきに、ぼうぜんと立ちすくんだ。(P115,116より)

MEDIA

英語書籍化!

 日本の神話に基づいて描かれた本作ですが、何と英語書籍化まで果たしています。07年に発売されたハードカバー判を持っているのですが、英語に怖じ気づいてまだ挑戦出来ていません…。せっかく英語も勉強中なので、楽しくこの本が読めたらいいな、と思うのですが…(白目)ちなみに英語版のタイトルは「Dragon Sword and Wind Child」です。”龍の剣と風の子ども”…大蛇って龍なんだ〜とか、風の若子ってなるほどWind childだよな〜とか、なんで狭也はタイトルに登場しないのかな〜とか、タイトルだけで色々な発見がありますね。(読んでない)
 なんとこちら、今ではKindleでも読むことが出来るっぽい!気になる人は挑戦して、是非感想を教えて下さい。笑

SONGS

奇跡の海/坂本真綾

遠子のテーマソング!アニメ「ロードス島戦記」のOPらしいのですが、曲調がいい感じに古代感があってそこもぴったり。
苦難に立ち向かっていく遠子の強さと健気さ、海の描写があるところも中盤以降の展開とマッチング!
もはや本作の公式イメソンと言っても差し支えないほど有名な曲なので(個人的感想)、知らなかった人はぜひ聞いてみましょう。

風よ 私は立ち向かう
行こう 苦しみの海へと

楓/スピッツ

こちらは小倶那のテーマソング!歌詞のひとつひとつが彼の心情に当てはまりすぎていて、「白鳥異伝読んだの?」と聞きたくなるレベル。
特に二番~Cメロが熱いので必聴です。名曲。

かわるがわるのぞいた穴から何を見てたかなぁ?
一人きりじゃ叶えられない夢もあったけれど

風が吹いて飛ばされそうな軽いタマシイで
他人と同じような幸せを信じていたのに

さよなら 君の声を抱いて歩いていく
ああ僕のままでどこまで届くだろう
これから傷ついたり誰か傷つけても
ああ僕のままでどこまで届くだろう

歌詞を一部抜粋してみました。まさに小倶那のための歌詞…!
三野での暮らしや遠子のことを懐かしむ一方で、もう昔の自分には戻れないと悟ってしまった中盤以降の彼の心情を描いているとしか、思えない…!(興奮)

The Meaning of us/安室奈美恵

もし白鳥異伝が映画化されたら、これをエンディングテーマにしてほしい…と聞くたびに思う、これも名曲。
物語の終盤らへんに遠子目線で、過去のあれこれを振り返る、そんな場面にしか思えない歌詞にぜひ、注目していただきたい…!
とってもいい曲だし最近の曲なので、カラオケでさりげなく歌うのもおすすめ(歌ったことはない)

過ぎて行った たくさんの月日が
風に乗ってふわり 舞い戻った
そうね 少し落ち着いたしぐさで
懐かしい響きで私を呼んだ

あの頃と同じようで
照れくさくなったり
なんだか大人になったあなたに
少し戸惑う

もし全てのことに何か
隠れた意味があるのならば
そう きっとこの瞬間を
乗り越えるために
あなたと出逢ったのね
その背中 頼もしく見えて
わかった
I know the meaning of us

ほらもう、船上での再会とか、「方法って…こういう?」とか、名場面がフェードイン・フェードアウトしてくる…!すごい(語彙力)

OTHER BOOKS

西の善き魔女

 同じく荻原規子作品です。白鳥異伝の一押しポイントでもある「元気な女の子とそれに振り回される男の子、ときどき立場逆転」のきゅんきゅん感が共通点なので、少し長いシリーズですがぜひ読んでみていただきたいです。アニメ化&漫画化もされており、「RDG」が出るまでは最もメディア化されていた荻原作品だったのでした。
 勾玉三部作と違って洋風のファンタジーということもありますし、全体のタッチが多少ライトなので、さくさくわくわく読めます。小倶那は素直で大人しい少年でしたが、こちらに登場するルーン少年は、いい感じにひねくれていて、ぶっきらぼうで、ルーンも大好きな荻原キャラです。