元号変わるから「平成くん、さようなら」を読んだ

令和になりましたね!
普段仕事でもなんでも西暦ばかり使っていて、「和暦ってちょっと使い所分からないよね」みたいなことを(すみません)正直思っていましたが、譲位による祝賀的な改元はお祭りみたいで楽しかったですね。

皇位継承をどう祝ったらいいのか分からなくて大晦日みたいになってたのも面白かったですよね。笑
https://togetter.com/li/1343570

ちょうどGWだったこともあり、ゆったりのんびり過ごしましたが、個人的に「改元前に読まなきゃ」と強く思った本がありました。

平成くん、さようなら / 古市憲寿

まさに!な本です。笑
著者は「とくダネ!」等でコメンテーターをやっていることでおなじみ、炎上コメンテーターとかって言われることもある古市憲寿さんの初小説、芥川賞候補作品でした。

(古市さんを知っているかどうか、知っている場合好きか嫌いか、それによって本の面白さが違ってきちゃうかもしれないな…🤔)

ざっくりあらすじと感想

平成を象徴する人物としてメディアに取り上げられ、現代的な生活を送る「平成くん」(ひとなりくんと読むよ。わたしは作中ずっとへいせいくん、と読んでいたけど)は合理的でクール、性的な接触を好まない。
だがある日突然、平成の終わりと共に安楽死をしたいと恋人の愛に告げる。
愛はそれを受け入れられないまま、二人は日常の営みを通して、いまの時代に生きていること、死ぬことの意味を問い直していく。
なぜ平成くんは死にたいと思ったのか。
そして、時代の終わりと共に、平成くんが出した答えとは―。

というあらすじ。
平成くんは1989年1月8日生まれ。(同じ学年であることに親近感を覚えた!)
彼がメディアに露出することになったきっかけは、原発関連の卒論が、たまたま東日本大震災の直後だったこともあり出版されることになったこと。
それがきっかけで小説・脚本など幅広く執筆活動、コメンテーター等をすることになる。

家賃130万円のタワーマンションに恋人と一緒に住み、移動はどこに行くにもUberを使い、レストランは食べログに大量にストックしてあるところから選び、飲んだ後に思いつきでアンダーズ(※虎ノ門ヒルズのホテル)に泊まる。
二人の予定は常にGoogleカレンダーで同期されていて、その日の予定は「ねえGoogle」とGoogle Homeに尋ねるのが日課。
そんなとっても“イマドキ”な生活を送る平成くんと愛ちゃん。

それを「ああ、そういう生活ってイマドキだよね」と面白がるか「なんだこいつら」と鼻につくかで、この本が合うか合わないかが分かれるように思います。笑

(ちなみにわたしは時折古市さんの顔が脳裏にチラついて可笑しな気持ちで読んでいました😂)

これが古市さんが好きかどうかで面白さが変わると思った理由です。もし古市さんが好きじゃなかったら、その時点で全然楽しめないと思います。それほど、古市さん自身が平成くんに投影されている、と感じ他のです。

ちなみに、平成くんのモデルって誰なんだろう?ってことが気になったのでいくつかインタビューを読んだところ、何人かのモデルを混ぜたとのこと。

僕のこともかなり入れ込みましたけど、平成くんは僕以上の合理主義者ですね(笑)。その意味でいうと、平成くんには何人かのモデルがいます。でも、平成になって人間がそんなに変わったかっていうと、変わってないと思うんですよ。たかだか30年でホモサピエンスが根幹から変化するわけはない。ただしテクノロジーの影響は大きいですよね。

ダ・ヴィンチニュース(httpss://ddnavi.com/interview/505003/a/)

初めに平成くんと愛ちゃんのことを「金持ちの知り合い」みたいな風に思えれば、自然と二人に感情移入することができて、後半グッと楽しめます。笑

安楽死という道に進もうとする平成くんに対し、止めたいけどどのように止めればいいのか分からずに戸惑う愛ちゃんのやり場のない気持ちに、わたしも悲しくなったな。
熱海のお風呂の場面に、心がぎゅっとなりました( ˘ω˘ )

安楽死が合法化された日本が舞台だけれど、
「安楽死は認めるべきか?」
と読者に投げかけるような、思想的な色は、実はそこまで強くない。

どちらかというと、平成くんというユニークなキャラクターを通して出版当時(2018年)の空気感を描きだすことで、平成という30年を振り返りたかったのかな?と思った。
昭和の価値観が長らく続いた中で、それが少しずつ平成の色に塗り変わっていって。
その「平成の色」を人間にしたのが「平成くん」なんじゃないかなって。

「嫌いだとわかっているものを無理して食べる理由はないよ。ピーマンの主たる栄養素はカリウム、β-カロテン、ビタミンC。エリンギは食物繊維とナイアシン。どちらも他の野菜やサプリメントで十分に代替できる」

嫌いなものを食べたくないってだけの話にすら、こんなに理屈をこねる!笑
逆に可愛らしく感じられて、平成くんのこと、結構好きになったな。
作中後半、本心が語られる部分では、平成くんの芯に触れた気がして、架空の人物をくっきりと描き出す古市さんの手腕に驚きもしました。

あえて固有名詞(実在の人物含む)をてんこ盛りにした書き方もイマドキ具合を加速させていて、元ネタが分かれば一層楽しめるかも。

赤坂インターシティ、東京ガーデンテラス紀尾井町、虎ノ門ヒルズ…、
この2〜3年で新しく出来上がったオフィスビルがさらっと登場し、平成くんは落合陽一の真似をしてレトルトカレーをストローで飲むし、「知り合いに協力してもらって」と言って平成くんはとある発明品を作るんだけど、その知り合いはスプツニ子!だったりする。
二人の一日の予定の中には、ゾゾの前澤社長や、showroomの前田社長との会食が組み込まれていたりする。
その固有名詞の羅列も、「平成30〜31年」を描き出す仕掛けなんだなきっと。

作中のラストシーンはまさに改元の前日、4月30日が描かれます。
執筆当時、古市さんはどんな改元の瞬間を予想したでしょう?
それは正しかったのでしょうか?
そんな楽しみ方も出来ますよん☺

わたしの大好きな作家である十文字青さんが、少し前にツイッターでこんなことを言っていました。

本作の楽しみ方もこんな風に、何かを論じるのではなく、何かを批判することもなく、ただこの独特の「空気」を楽しめばいいんじゃないかな、そんな風に思いました。

いい意味での「空気感小説」、改元の記憶も新しい今日この頃のうちに、お試しいただいたらいいと思います。
(古市さんを全く知らないか、好きな人だけ!笑)

以下、読了した方のみ読むことが許される超ネタバレ感想が続きます!

ネタバレ感想

ちょっと病気ネタはね…と正直ちょっと萎えちゃったんだけど、平成くんの遺伝性の目の病気が明かされた頃には、すっかり平成くんのことが気に入っていたので結果的に許しました。(誰)

わたしが平成くんに絆されたのは、熱海のお風呂の場面だったと思う。

「あのね、僕がとんでもなく恵まれていることはわかるよ。愛ちゃんには本当に感謝しているんだ。いつか、特定の誰かを恋人って呼びたくないって言ったことがあったよね。でも結婚願望なんてこれっぽっちもなかったけど、愛ちゃんと結婚して、子どもなんか全然好きじゃないけど、子どもを作って、一緒に育てたら楽しいだろうなって、そんな平凡極まりない未来に憧れたりもしたんだよ」

なんだよなんだよ、かわいいじゃないか…っ!

30歳にして全盲になるかもしれないという恐怖は、それは確かに死にたくなるかもしれないよな、と思う。
クールな平成くんが本気で愛ちゃんのことを愛していて、彼女のために彼なりの(ちょっと変わった)やり方で、できる限りのことを残して、ただし彼女の前からは消えてしまって、生きているのかもしれないし、死んでいるのかもしれない。
どちらなのか分からなくなる、という結末は、悲しいけれど切なすぎない、そんな選択肢もイマドキならあるのかもしれない、納得できる終わり方だと個人的には思ったな。

新しい恋人と過ごしながら、「子宮はあけておく」とスマートスピーカーに呟く愛ちゃんの過ごし方も、したたかで、切なくて、共感できた。

それと、改元の瞬間を古市さんが割と正しく予測していたことも、面白かったな〜

 崩御による改元ではないため、昭和の終わりとはだいぶ雰囲気が違うはずだ。(中略)まだ若かった松平定和アナウンサーの「昭和が終わります。平成元年が始まります」という重苦しい言葉と共に幕を開けた平成と違って、テレビではきっと華やかな特別番組が放送されているのだろう。
(中略)
 あと5時間で平成が終わる。
 新しく発表された元号には未だに慣れないが、私たちはすぐに馴染んでいくのだろう。新しいGalaxy Noteも、安室奈美恵が引退した音楽シーンも、先月模様替えをしたリビングも、初めは気に入らなかった彼との節句巣も、色々なことはきっとすぐに馴染んでいく。

※セックスを節句巣と誤字ってて自分で笑ってしまった。打ち慣れてなさすぎた。

会社の人から入社当時、(平成生まれがいよいよ入ってきた!とざわつかれた世代だったので)「小渕さんが平成って文字掲げたの知らないでしょ」と沢山言われて、「映像は見たことあります」とその度に答えていたんだよな。

平成くんも、愛ちゃんも、わたしも、結局のところ平成しか知らないのだ。
いい時代だったのか、正しい方向に進んでいるのか、これしか知らないから分からないわたしたち。

古市さんも85年生まれだそうで。
(もっと上なのかと思ってましたすみませんでした)
この本は、アラサーが変わりゆく平成を愛おしむ話なのだと思った。
そして、その中には、次の令和への祈りも含まれているのだと。

余談:
最後に、ゴールデンカムイ(わたしが今どハマりしている漫画)が登場してニヤニヤした。古市さんも読んだことあるんだな!