ニガめファンタジーの旗手・多崎礼さんの「血と霧」が重すぎて

最近分厚い本ばかり読んできたので(愚かな薔薇、同志少女、黒牢城……)、久しぶりに薄めで読めるもので、ファンタジーとか読みたいな…と思い、こちらを手に取りました。

渋くてカッコいいイラストが印象的ですね。多崎礼さんの「血と霧」、全2巻です。

多崎礼さんは「血と霧」がわたしにとっての二作品目で、初めて読んだ「煌夜祭」が前評判通りの面白さだったので、今回も期待しながら読ませていただきました。

↓「煌夜祭」おすすめですよ〜!↓

ざっくりあらすじと感想:この世界観がすごい

煌夜祭を読んだ時に「甘いおとぎ話ではなくその世界の”現実”をしっかり描いた、大人に刺さるファンタジーだな」と感じたので、本作ではどんな世界が語られるのだろう?ととても楽しみでした。

結果、甘いおとぎ話どころかブラックコーヒーよりも苦めな仕上がりでちょっとショックですらありました笑

物語は主人公がベッドで目を覚ますところから始まるのですが、「起き上がるか、死ぬか」の二択で迷うのだもの。苦味が効きすぎている。

一日の始まりはいつも物憂い。この重たい頭を枕から引きはがすくらいなら、こめかみを撃ち抜いたほうがまだまし(傍点)だ。薄く目を開き、天井に揺れる蜘蛛の巣を見つめ、逡巡すること数秒。俺はため息をつき、上体を起こした。

P7より

なんて怠惰な主人公なのだろうと思ったのですが、「起きるか死ぬか」の思考に至る経緯も、物語の中でしっかりと語られていきます。

ストーリー、世界観、登場人物。
どの要素も文句なしに素晴らしく、読み始めたら物語に引き込まれていくこと請け合いです。多崎さんの筆力が遺憾無く発揮され、全2巻でしっかり語られ尽くされます。すごいぞ。

個人的に出色だなと思ったのは、世界観と登場人物でした。

ちょっとSF的な要素もあるのですが(スチームパンクと表現されている方も居ました。なるほど、こういうのをスチームパンクと呼ぶのね)、この世界に生きる人たちは、各人が持つ血液によって価値が決まります。

色と同じですが、明度・彩度・色相の三要素によって血液が評価され、それがそのまま階級社会に繋がっていくというもの。

明度は「バリュー」と呼ばれ、血が持つ能力の強さ。彩度は「クロマ」と呼ばれ、血の能力の持続性。色彩は「ヒュー」と呼ばれ、血の能力の種類。肉体強化とか、精神感応とか、情報分析とか。

慣れるまで少し用語が混同しますが、最初にちゃんと解説があるので安心です。

(巻頭解説、ありがたい)

血の能力は完全に先天性のものなので、生まれたときにその人の価値が決まり、それによってある程度人生も決まってしまう完全な階級社会。

そして、物語の舞台となる都市も素敵なのです。なんとこの物語では、人々は超巨大な巻き貝の中に住んでおり、そんな巻き貝が世界に幾つもあるというのです。不思議。

地中に埋もれた巻き貝の中には、地上層・中層・下層と高さごとにエリアが分かれており、地上に近いほど血の能力が強い人たちが住んでいます。最下層は血の能力の弱いものが住んでいるそう。国を支える動力である蒸気炉と共存する形で、配管と汚泥と蒸気、深い霧とひしめき合った建物に埋もれるように暮らしているのだとか。

わたしは読みながら、FF7のミッドガルを思い浮かべていました。

ちょうど同居人がリメイク版をプレイして居たこともあり、配管にまみれたちょっと近未来チックな”あの”ミッドガルと、本作の下層エリアとが、結構近いのでは?とイメージしていました。

(工場萌えに近い感じがあるよね)

血が全てを決める階級社会。

底辺に住みながらそこにふさわしくないほど高い能力を持ち、けれど何故か世に絶望しきった無気力おじさん(主人公)。そして脇を固めるのは、容姿端麗・性別不詳なバーテンダーや疎まれた王子様、超怪力で豪放磊落な姉御、秘密を抱えながら誠実であり過ぎた美紳士……。

登場人物の内面までしっかり掘り下げているので、みんながどのように考え・どう行動するか、納得感を持って読むことができます。それを決して多くないページ数の中でやり切っているのがすごいと思うのです。物語は長ければ良いものではないんだなぁ。

それと、登場人物がほぼ全員容姿端麗なところも良い。
ルッキズムと言われてしまうと弱い😖のですが……だって、やっぱり、どうせなら、美形の活躍が読みたい……笑

ディストピア的世界観+内面まで掘り下げられた容姿端麗な登場人物+多崎さんの硬質な文章=面白い

本作を端的に表すと、この方程式になるのではないでしょうか。

面白いのですが、ただ一つ。苦めファンタジー耐性のある人がお読みになることをおすすめします。

気になる方は是非お試しください〜!

※以降、ネタバレ感想が続きます。物語の結末に触れてしまっているので、未読の方はご注意ください。

ネタバレ感想:苦さの意味とは

いや〜〜、最後そうなっちゃうかー!
という感じじゃなかったでしょうか。声高に叫びたかったですよわたしは。

おいおい、大人がみんな生き残って子どもが死んじゃうって、辛すぎるやないかーい!と。

多崎礼さんは「煌夜祭」を読んだだけですが、御都合主義やお手軽な大団円を許さない方という印象があったので、本作も決してルークがみんなに語って聞かせた”探索会社設立”という夢は叶わないだろうなと思っていました。
あるとしても未来の暗示くらい?と身構えながら読んだのだけど、いや……まさか……大人だけが生き残るエンドって……辛すぎる。

竈門の炭治郎くん的な言い回しをするなら、わたしは未婚で子どもも居ないから耐えられたけど、お子さんがいる方や中高生が本作読んだら軽くトラウマになるのでは…?

もちろん、本作のテーマは理解したつもりだけれど、グローリアを含む病を得た子どもたちが犠牲になったのも事実な訳で。

生き残ったロイスたちが、子どもたちのことを忘れず、愛し続け、痛みを乗り越えて生きようとするのは凄いことだし良いことだと思う。だって失われたものは戻ってこないから、それなら前向きになるしかない。

でも、傍観者たる読み手が、本作を手放しに「すごく良かった!めっちゃ泣けた!最高!」と言うことは出来ないなぁ、と思ったのです。後味の悪さがどうしたって残る。
読み手が(年齢的に)立派な大人であればあるほど、『お前はのうのうと暮らして、本作を称賛して、それだけ??』と言下に責められているような気がして。

20代で亡くなったグローリアは病に苦しみながら最後まで戦い抜いて死んだ。確かたった6歳ほどだったミリアムは母親と同じ病が潜む身体で悍ましい状況に巻き込まれ、恐怖の中で父親への愛を語りながら死んだ。ルークはたった11歳で余命半年と言われ、それでも自分なりの命の使い方を見出した喜びと誇りを抱えながら死んだ。

グローリアのおかげでミリアムがあり、ミリアムのおかげでルークがあり、ルークのおかげで世界に均衡が訪れた。

彼ら彼女らが命をつなぐことで、女王の圧政から解放され、ロイスには生きる活力が与えられた。それは尊い成果だと思う。
生き残った者それぞれの中で、死者は生き続けている。だから生きている人たちは強く生き続けなければならない。それもそうだと思う。
そして3人は不治の病を持っていて、どのみち長くは生きられなくて、その限りある人生を生き切った。それも素晴らしいことだと思う。

3人の不治の病が所与のものであったとしたら、その中で最良の結果が得られたのだと言う納得感は、あります。

著者が読み手に一定配慮しながらも、描きたいものを描ききったのだろう……ということは感じるのだけど、でもやっぱり、3人は死ななければならなかったのか?ルークかミリアムは生きていられなかった?大団円にはなぜならなかったのか?辛い結末を提示してまで著者は何を書きたかったのか……??

そう考えてしまいました。あまりに痛ましくて。

ルークは心から喜びを感じながら死地に向かっただろうけど、それは確かに救いであっただろうけど、でも生きられるなら、生きたかったに決まってる。
なんだか特攻隊と構造が似ている気がして辛いのかも。国のために散っていった若者という意味で。

本作の中の大人たちは一貫して、子どもたちは守られるべき対象で、子どもを守るのに理由なんていらないというスタンスで、それが心地よかっただけに、守るべき子どもたちから守られた大人たちというラストに、恐縮ながらちょっと引いてしまったのでした。

そうまでして著者が描きたかったものは何だったのか……

わたしには、限りある命への賛歌と、運命に抗う意志と勇気への賞賛と、愛することの喜び、に感じました。

あとちょっとだけ話がずれますが、グローリアとロイスの馴れ初め話、ずるくなかったですか!?!?だってあんな、すごい泣かせに来てて、でも抗えないじゃないですか。(ボロ泣き勢)

普段、病気で愛する人たちが引き離される系はなるべく避けて通るようにしているのですよね。だってどうしたって辛いし、「ほらほら悲しいでしょ〜??」という悲しさの押し売り感がすごいというか。

今回はもう避けようもないのでしっかり読んで、がっつり泣きました笑

残していく側のグローリアと残される側のロイス、どちらの気持ちにも感情移入してしまって。素直に、自分の周りの人……特に身近な大切な人たちと、限りある生を精一杯楽しみたいと思いました。

そう、やっぱり本作のテーマは、命への賛歌であり、勇気への賞賛であり、愛する喜び……苦境にあっても諦めず、愛する人を精一杯愛そう。そんなテーマだったと思うのです。
子どもたちは死んでしまったけれど、あくまで前向きで力強いメッセージを読み手に伝えたかったのだろうと。

分かったよ、分かったのですが、本作を万人に勧められるかといったら、やっぱりちょっと難しいかなぁ…と思ったのでした。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!多崎さんの作品、他も読んでみます☺
(ロイスの子どもの名前、最初に書いたときミリアムではなくエミリアと書いてました笑 ミリアムだと思っていたのに手がエミリアと書いてました。あちゃ〜)