中華ファンタジーの新星「後宮の烏」が面白かった

後宮の奥深く、<烏妃>と呼ばれる妃が住んでいる。
その妃は、妃でありながら夜伽をすることのない、とくべつな妃だった。漆黒の殿舎のなかでひっそりと暮らし、外に出てくることはめったにない。その姿を見た者は、老婆であると言う者もいれば、うら若い少女だったと言う者もいた。
烏妃は、不老不死の女仙とも、いや恐ろしい幽鬼だともささやかれた。彼女は不思議な術を使うという。頼めば、憎い相手の呪殺から招魂、祈祷、失せ物さがしまで、なんでも引き受けてくれるともっぱらな噂だった。
後宮で生きながら、けして帝のお渡りのない妃。ーーのはずだったのだが。
この夜、烏妃の殿舎へと向かう、ふたつの影があった。(P6)

今年の4月に発売された本作、12月に続刊が発売とのこと!
(その名も「後宮の烏2」。シンプル!)
続刊にも納得の面白さでした😊

ざっくりあらすじと感想

静かな、悲しいけれどあたたかい話だったな。
冬の日差し、という言葉が幾度も本文に出てきたからか、この小説の読み心地自体も、冬の陽だまりのようだった。風が吹くと冷たいけれど、だからこそ日差しの暖かさに心が解けるような。

中華風ファンタジーが好きなら一読の価値はあります。

主人公は、それぞれの過去と罪を背負った若き王・高俊と烏妃・寿雪。
高俊は感情の読み取れない無表情な王様で、寿雪は無愛想ながら心根は善良で、年齢に見合わぬ分別と不思議な術を操る力を持っている。
代々烏妃は決して帝と交流を持たず、関わることのない二人だったはずが…というお話。

中華風ファンタジーだと
「登場人物の名前覚えられませんわ問題」が必ず発生すると思うけど、この本は登場人物が少ないのでその心配はいらないかも。笑

代表格ともいえる「彩雲国物語」がドタバタ劇だったのと比較すると、終始落ち着いたトーンで、作者は対象年齢を少し上目に設定したのかもな、と思いました。

※ 登場人物の名前覚えられませんわ問題の解決になるよう、登場人物一覧を最後に付けときましたッ!親切設計!

その小さくか細い身に重すぎる過去と秘密を背負わされ、人との交わりを拒否しながら繋がりを断ち切れずに戸惑う寿雪に、何とか幸せが訪れますようにと、読者は祈らずにはいられないでしょう。

冬の日差しのようなあたたかさが降り注ぐラストシーン、読み手の胸にもじんわりと静かに熱が広がります。

以降、ネタバレ感想!未読の方はご注意ください〜。

登場人物一覧もあるよ!ネタバレ感想

皇太后に実母と友を殺され復讐の炎を静かに滾らせる高俊と、正体が露見されれば法の定めにより処刑されるが、かといって後宮から逃げ出すことが決して許されない寿雪。

復讐を遂げて虚脱しながら、そんな自分の状態を冷静に分析する高俊の知性。
無表情だ鉄仮面だと揶揄されるほど(鉄仮面は言われてない)感情の起伏のない高俊が、寿雪のことになると少しだけ変化が生じる様。
 高俊が寿雪の名前を呼ぶたびに、彼女の胸に兆す波…。

ささやかな描写の積み重ねが、作品全体を好ましくしているなと。

一冊完結で読みやすく、完成度の高さにニッコリ😋

癒えることのない心の傷を負った二人が、少しずつ心を通わせていく…と書くと
少しニュアンスが違っていくんだけど、ひたすら人を遠ざけようとしていた寿雪が、毎度押しかけてくる高俊に悪態をつきながら、でもそれが自然なものになっていく様子がほほえましかった。

高俊が言っていたように「猫がはじめてなついた」という表現がぴったりで、寿雪は怒るだろうけど、でもよく分かるなあ…と思った。

二人の関係が親密になっていく様子に「もしや寿雪が正妃に…!?」と読んだ人はもれなくわくわくしたと思うんだけど、そんな読み手の目を覚まさせるかのように、眼前に広げられた夏の王と冬の王という秘密。国の正史。

国の乱れの原因が二人の王の愛憎だったとしたら、賢い二人は決して同じ轍を踏まないようにしてしまうよね。

友情という言葉で締めくくられた二人の関係に、「くっついてほしかった…!」と思わずもだもだしてしまったけど、でも、未来永劫「友情」だとは限らないもんね!?

まだ固く縮こまっているかもしれないけど、小さな蕾がついたような、そんな終わり方が、この物語にはぴったりなのかも。

さて、「名前覚えられませんわ問題」解決の一助になったらいいな、と思いながらちまちま作った登場人物一覧です。
 1話ごとに、その話で登場した人物をまとめています。

翡翠の耳飾り

柳寿雪(りょうじゅせつ):16歳、烏妃と呼ばれる娘。夜明宮に住む。
夏高俊(かこうしゅん):母と友を皇太后に殺され、復讐心を抱えながら法に則り罰しようと考える若き王。
衛青(えいせい):高俊の側近である宦官。美しい容姿と声を持っている。
温螢(おんけい):二十歳前の若き宦官。衛青の命令で寿雪らの護衛を行う。一重の切れ長の目と頰に一文字の傷を持つ。
九九(じうじう):飛燕宮の宮女。餅屋の娘。いじめられていたところを寿雪が助けたことがきっかけで、寿雪に仕えることに。
蘇紅翹(そこうぎょう):班鶯女の元宮女。舌を切られ洗穢寮(病人となった宮女が住む場所)に居た。寿雪に真実を筆談で伝え、以降夜明宮に仕えることに。
星星(しんしん):金色の鶏。烏連娘娘の使いと言われ、次代の烏妃を見出す役割を持つ。寿雪の言うことをあまり聞かない。
李秋容:九九をいじめていた太府寺丞(市場を管理する役所)の娘。張易に辛氏からの文を届けていた。
麗娘(れいじょう):先代の烏妃。寿雪に愛情を注ぎ育て、烏妃としての生き方を教えた。
明允(めいいん);40代、学士承旨であり財政をつかさどる戸部の侍郎を兼ねる。
謝妃(しゃひ):高俊の実母。父親が下級官吏であったため後ろ盾がなく、皇太后のいじめにあっていた。
班鶯女(はんおうじょ):高俊の持つ耳飾りの持ち主。鵲妃殺害の罪を問われ自害した。
鵲妃(じゃくき):班鶯女によって毒殺されたと言われている妃。実際は、皇帝の子を身籠ったことが原因で皇太后に毒殺された。
皇太后:先帝をそそのかし外戚と共に権力を掌握し、高俊を廃太子に追い込んだ。高俊のクーデターによって現在は汀泪宮に幽閉されている。
郭皓(かくこう):班鶯女の許嫁。秘書省の校書郎。班鶯女の死の真実を探るため後宮に潜り込んでいた。宦官に襲われていた寿雪を助ける。
辛氏(しんし):皇太后付きの侍女。皇太后が幽閉されて以来、閑職である内書司にまわされていた。
張易(ちょうえき):秋容が文を届けていた宦官。辛氏に頼まれ、毒薬と知らず預かっていた。
顧玄(こげん):皇太后に買収され、高俊の暗殺計画を企てる。冷遇されている辛氏に目をつけ仲間に取り込んだ。

花笛

雲花娘(うんかじょう):鴛鴦宮の妃。高俊とは幼馴染のようなもので遠慮がない。
欧玄有(おうげんゆう):花娘の恋人。三年前に暴動に巻き込まれ死亡。魂が別の場所にあり、花娘の持つ花笛が鳴ることはない。
月下翁(げっかおう):かつて流行していた月真教の教祖。冰月に取り憑かれたことで不思議な術を操ることができた。
丁藍(ていらん):高俊の腹心であり親友でもあった宦官。皇太后の手勢に捕まり嬲り殺しに遭った。
葉倩城(ようせんじょう):花娘に仕える宮女。花娘が高俊から下賜された壺を持ち逃げした。実際は冰月が倩城を操っていた。
欒冰月(らんひょうげつ):前王朝である欒家の巫術師。死んだ後も魂魄は彷徨い、月下翁などに取り憑いていた。

雲雀公主

雲雀公主(ひばりひめ):宮女であった母を幼い頃に亡くし、後ろ盾なく誰からも顧みられることなく13歳で死んだ公主。雲雀を可愛がっていた。
薛魚泳(せつぎょえい):烏漣娘娘を祀る廟である星烏廟に仕える神祇官。
羊十娘(ようじゅうじょう):鶴妃(=謝妃、高俊の母)の侍女。雲雀公主のために池に花を手向けていた。

玻璃に祈る(綺麗なタイトル!)

羽衣(うい):宝物庫の管理を行う老宦官。
明珠公主(めいじゅこうしゅ):欒王朝最後の帝の二番目の公主。享年24歳。後宮に禁軍が押し寄せた際、柳の下で自害した。以来、柳の花が咲く時期にのみ幽鬼となって現れる。

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