年越しを寮に残ることを決めた四人の少年たちの不穏で青春な7日間「ネバーランド」

美国が暮れに松籟館に残る決心をしたのは、別に大層な理由があったわけではなかったが、寛司が残ると聞いたのもその一つであることは確かだった。(書き出しより)

 

恩田陸はスッキリ&モヤモヤと青春&ミステリーの4象限に分けられるというのが持論なのですが、
これは間違いなく”スッキリ×青春”にカテゴライズされます。
地方名門校の寮にて、男子4人が年越しする話です。

 

あらすじと感想

 
先日「読んだつもりで終わらせない名著の読書術」という本を読んだのですが、
ストーリーは読書の醍醐味のたった10分の1で、残りは“あじわい”なのだとか。
だとすると、恩田陸作品のいくつかは、
”あじわう”ことに力点を置いているのかもしれない、と思い至りました。
 
恩田作品といえば「蜜蜂と遠雷」「夜のピクニック」が有名ですが、夜ピクはまさにその代表例ですね。
たった一夜、みんなでただ歩く、学校行事を描いた名作です。
夜ピクとこのネバーランドは似た系統だと思いました。
どちらかが好きならもう一方も楽しく読めると思いますおすすめ。
 
 
このネバーランドは、地方(九州)名門男子校の寮にて、
それぞれの事情から里帰りせずに寮に居残ることを決めた3人+1人が
年末年始を寮で過ごす、というもの。
それ以上のあらすじはありません。
 
大小様々な出来事が起こりながらも、総じて穏やかに年末は過ぎていく。
そんな彼らの7日間が7章かけて描かれています。
 
夜が更けるごとに、謎は解かれ、秘密は暴かれ、少年たちは絆で結ばれていく。
これはその”あじわい”を楽しむ本なのだと思いました。
 
 
年末年始に、ほのぼのしながらこわごわと、お家でゆっくり。
そんな読み方がぴったりの素敵な一冊でした。
 
 

ネタバレ注意!自分向け感想メモ

 
四人の少年がみんな個性豊かで魅力的だったなあ。
 
あとがきで恩田さんが「知り合いの男子寮生活体験者に話を聞いたけど、
あまりにも美しくない実態に、参考にしないことにした」と書かれていたのが率直すぎて笑いました。
綺麗な男子高校生を楽しむ本として、とても優秀なんだな。
 
主要登場人物である四人は、それぞれこんなキャラクターです。
 
美国:両親は海外赴任中。子供の頃に父親の愛人に誘拐されたことがあり、女性が怖い。
光浩:父親は百貨店の社長だが本人は妾の子供。両親は心中し、本妻に引き取られたのちに性的虐待を受ける。
寛治:両親が離婚調停中。寮に押し入ろうとした両親に激怒する。テニス部部長。美国のことが好き。
統:父親が天文学者、母親は早くに死亡。自分が母親を殺したと思っている。(恐らく、母親の自殺)
 
みんな色々抱えてるな…
 
 

男子たちの7日間、章題と主な内容は以下の通り。

 

(四文字になってるのが気持ちいいな!)

 
 
車窓の海:統の告白と、翌朝吊るされた人形を見るまで(このぞくっとする感じ、恩田さん好きぃ!ってなる)
冬の幽霊:岩槻繁久の話、統の告白の考察(母親の自殺説)、ピンクの電話が鳴るまで(普遍的な面白さだけど、唯一時代を感じるのがここ笑)
赤い爪痕:紘子からの電話、光浩の「飼われてる」発言、美国誘拐事件、繁久が待ってたの美国説(from光浩)
遠い季節:雪の朝、美国の自己嫌悪、寛司の両親襲来
歪んだ扉:テニスでの美国と寛司の対決、空に落っこちそうな芝生の寝転び、光浩の秘密
愛の能力:早朝ランニング、年賀状、統の渡米、首吊り人形の真実
架空の国:敬子の遺言
遥かな声:年賀状の宛先
 
序盤はホラーっぽい雰囲気から、高校生たちの日常を描いたり、
彼らの秘密が夜毎明かされていったり…
青春小説としても、かなりの出来栄えだと思う。
 
 

印象的な場面まとめ

 
全編楽しく読みましたが、特に刺さった部分を引用していきます。
 

①子供を産む理由
「なんでみんな子供なんて欲しがるんだろう。俺、ここ数年ずっと考えてるんだ。跡継ぎがほしいとか老後をみてほしいっていうのは、意外と虹的な理由なんじゃないかと思う。じゃあなんだろうって考えて、最初は支配欲かなって思ったんだ。権力欲のプライベートなもの。支配という言葉がきつ過ぎるなら、影響欲とでもいうのかなーー誰かに影響を及ぼしたいっていう欲望、けっこうあると思う。俺だって、支配欲というとおおげさだなと思うけど、影響欲はあるなと思う。でも、これもなんだかピンと来ないなって思った。それから更にずうっと考えて、最近辿り着いた結論が何かというと」
 寛司は小さく溜め息をついた。
「特に女はそうだけどーーきっと、自分に『属する』ものが欲しいんだ。『属する』って言葉が一番ピンと来る。はっきり自分のものだと言えるもの。自分の延長線上にあるもの。だから、自分にきちんと属さないものには攻撃を加えるんだ。いろんな理由をつけて。いろんな大義名分で」(P86)

 
すごく腹落ちした場面。そっか、属するもの、確かにそうかもしれない。
必要とされたい、自分を絶対視する存在が欲しい、確かなつながりを感じたい。
そういうものなのかもしれない。
 

②美国の自己嫌悪
 依田くんなんか大嫌い。一番好きな子に泣かれてしまった光浩。彼女はうずくまって泣いている。みんなが光浩を見ている。泣かせた、泣かせた。言葉が出ない。頭の中で、ダイキライという言葉ががんがん響いている。拒絶されたらそこでおしまい。いつまでも来ない美国を待ちながら死んでしまった岩槻。途中で電話を切られた紘子。どれもみな、決して戻ってくることのない遠い季節の中の出来事だ。優しくない俺。拒絶するのは残酷だ。話だけでも聞いてやれよ。ねえ、何か一言掛けてやれば。人はそう言う。でも、俺はそれがどうしても嫌だったんだよ。(P141)

 
恩田さんの太字マジックが光りますよね。美国くんも意外と屈折したところがあって、好きだなあと思った場面。
 

③寛司の大爆発
「ーー二人はいっつも言ってるじゃないか」
 寛司が突然、聞いたこともないような低い声で呟いた。
「私には、僕には、それぞれの人生があるんだって。親としてではなく一人の人間としての人生があるんだって。社会人であり、男であり、女であり、誰かの友人であり、息子であり、娘であり、ええと、あとはなんだっけ?忘れちゃったよ。親としてではなく一人の人間としての人生。いっつもそう言ってたろ。それを分かってくれって。尊重してくれって。言っただろ?」
 さっきの怒号よりも、むしろその低い声の方が怖かった。寛司のあまりの剣幕に、誰もその場を動くことができない。彼は目を見開き、声を張り上げた。
「だったら、俺のこともほっといてくれよ。確かにまだ俺はあんたたちの保護下にあるし、法的には一人前じゃない。でも、あんたたちを親としてでなく見ろというのなら、俺のことだって子供としてでなく見てくれたっていいだろ。ましてや俺にあんたたちの人生を選択させるなんて」
 かすかに声が震えた。
「あんたたちには会社や馴染みの店や実家があるだろうけど、今の俺にはここしかない。俺の世界はここだけだ。俺は、こいつらと一緒に、ここで毎日飯食って暮らしてるんだ。これは、俺のだ。あんたたちのじゃない。俺の人生も尊重してくれたっていいじゃないか。俺の部屋に入るな。ここには入ってこないでくれよっ
(中略)
「うん。なんで寛司が怒ってたのか、あいつら分かってないだろうな」
 光浩が相槌を打つ。
 フェアじゃない。寛司が怒っているのはその点なのだ。彼等は一見大人の論理で寛司と対等の立場であると見せかけているくせに、実は親の論理を寛司の喉元に突き付け、彼に子供としての論理で大人の問題を解決することを迫っているのだ。寛司は最初からひどい劣勢に置かれている。彼はそのことに怒っているのだ。
「あいつがあんなに松籟館に愛着を持ってるとは思わなかったなあ」
 統がプチトマトを一つ、つまみ食いした。
 松籟館にはない、と美国は思った。寮生活にというのとも違う。松籟館での、俺たちの生活に愛着があるのだ。この一見乱雑でどうしようもない世界では誰もが対等だ。それでいて、親も教師も侵すことのできない一種の聖域なのだ。この学校に、松籟館に一歩足を踏み入れた瞬間にだけ現れる、どこにもない国ーー(P149〜152)

 
まるでわたしもこの場に居合わせたように、寛司の怒りがダイレクトに伝わってきたこの場面。
怒られた時って、なんだか体が痺れたような感覚を味わうんだけど、
なんかちょっと痺れちゃったもんな(物理)。
 
わたしはまだ親になる予定もありませんが、寛司のこの気持ちに共感したこと、忘れたくないな、と心に刻んだ一幕。
 
 

④早朝ランニング
 彼は、普段の練習で一人黙々と走りながら左右に流れていく風景を感じているのがいちばん好きだった。視界の隅にちらっと入る空に浮かんだ雲や、澄んだ香りを放つキンモクセイを貫く木洩れ日が、空っぽになって走っている無防備な自分の中に焼き付く瞬間を感じるのが好きだった。そうして毎日走っていると、風景の流れるテンポの方が身体にしっくり来るようになって、走っている間こそが自分の時間だと感じるようになる。
(中略)
 自分の後ろをあの三人が走っていると思うと、なんだかカルガモの親にでもなったようなくすぐったい気分だった。いつのまにか四人の歩調と呼吸が揃って、リズムが生まれている。不思議な一体感。奇妙な高揚。やがてそんな興奮も一足ごとに抜け落ち、美国はがらんどうになる。流れるよう風景と心臓の音だけが世界を構成する。自分がただの燃焼機関になって、動かされているような感じになる。
 一日の幕が開く。神秘的に透き通った空が、だんだん白く輝きだす。見慣れたいつもの朝がやってきて、がらんとした風景を当たり前のような顔で包んでいく。(P204〜206)

 
三浦しをんさんの「風が強く吹いている」もそうですが、走るの嫌いなわたしでも、
ここを読んでると走るっていいなあ…と素直に思えます。まあ結局走らないんですけどね。
 
 
夜のピクニックと似た雰囲気(大きな事件は何も起こらない。日常そのものがドラマになる感じ)なので、
どちらかが未読であれば、ぜひ読むことをオススメしたいですね。(物知り顔)