SNSで最近よく見かける宮本輝「錦繍」を読んでみた

この表紙、SNS(ツイッター、インスタ)でよく見かけませんか?

宮本輝さんの「錦繍(きんしゅう)」です。

以前から存在を知っていて(SNSがきっかけだったと思います🤔)読んでみたいな〜と思っていたので、10月にひとり旅をした時に旅のお供として購入しました。

なるほど名作…と長年愛されるのも納得の面白さだったのですが、それにしてもSNSでよく見かける気がします。

昭和60年に発売された文庫本が、なぜ注目を浴びるのか??
なぜこんなにも見かけるのか??
いつどこからこの錦繍ムーブが始まったのか??

せっかくなので、最初にこの「錦繍ムーブ」についてご紹介してから、本作の内容に触れ、最後にネタバレ感想(未読の方はご注意ください!)と書き綴りたいと思います。

錦繍ムーブの要因その①女優・石田ゆり子さんの推薦

一番大きいのはこれだと思います。
ダ・ヴィンチのインタビューの中で本作を紹介されたとのこと。また、文庫本の帯にも「石田ゆり子推薦!」と書いてあったそうですよ。
(わたしが購入した時は、帯は無かったです)

恐らくこの石田ゆり子さん効果とも言うべきプチヒットがあり、読んだ方がSNSに投稿したことで、「SNSで見かけて気になった」わたしのような後追い読者が生まれたのだと思います。
(実際わたしは、石田ゆり子さんの推薦図書である、という事実を知らずに本作を手に取りました)

錦繍ムーブの要因その②美しいタイトルと表紙が「読書の秋」にぴったり

個人的な意見ですが、石田ゆり子さんの推薦という最初の波が起こって以降も本作をSNSで見かけるのは、タイトルと表紙の妙だと思います。

錦繍とは、「錦と刺繍をした織物。美しい衣服・織物。美しい紅葉や花」を意味しています。

特に美しい紅葉や花の例えとしてもっぱら使われている印象があり、“読書の秋”にぴったりの一作と言えると思います。

そして、この美しい表紙!
有元利夫さんという、39歳で亡くなられた早世の画家の装画が印象的ですね。
金色の、まさに錦のような(錦:金糸や色糸などで模様を織り出した絹織物)背景と、雲?がたなびく山の中に佇む赤い服を着た女性。

シンプルに、映える。
SNSに、載せたくなる。

美しい、日本の秋を思わせるタイトルと映える表紙。そして、ページ数も比較的少ない(262ページ)ので、「読書の秋だし、サクッと文学っぽい作品でも読んでみようかな」という本読みのニーズにドンピシャなんですね。

いやあ、よく出来ていらっしゃるなあ。
まさか発売から40年ほど経ってから、こんな風に愛される売れ続けるなんて、作者も考えていらっしゃらなかったんじゃないかしら。

そして、ふと手に取った読者をしっかり満足させる普遍的な面白さがあるところも、SNSで広まる理由だと思います。

ということで、そろそろ本作の中身に入っていきましょう。

あらすじとざっくり感想

「前略 蔵王のダリア園から、ドッコ沼へ登るゴンドラ・リフトの中で、まさかあなたと再会するなんて、本当に想像すら出来ないことでした」運命的な事件ゆえ愛しながらも離婚した二人が、紅葉に染まる蔵王で十年の歳月を隔て再会した。そして、女は男に宛てて一通の手紙を書き綴る――。往復書簡が、それぞれの孤独を生きてきた男女の過去を埋め織りなす、愛と再生のロマン。

裏表紙より

正直、SNSで見かけたからという動機がなく、書店で手に取っただけだったなら、このあらすじを読んでも購入はしなかったのではと思います。※個人の感想です。

なんかこう、どろっとした恋愛モノの予感がするというか。最近は恋愛モノから足が遠ざかっているので…。

面白いのかな、と思いながら読み始めた途端、その不思議な書き出しに「どういう設定なんだろう、どういう関係性なんだろう」と引き付けられました。

  • どうやら、女が男に手紙を宛てている。
  • 女が男に手紙を書くのは、もう12、3年ぶりのことだという。
  • 久しぶりに男を見た女は、男の変貌ぶり(すっかりお変わりになってしまったお顔立ちやら目の光やら…とのこと)に動揺し、手を尽くして男の住所を調べ、手紙を送っている。
  • 女は生まれつき障がいを持つ息子と、急に思い立って蔵王に来ていたところで、偶然男とリフトの中で再会している。

ということが、ほんの2、3ページのうちに語られます。

え、どんな状態??と気になったらもう、一気読みでした。

読み終えてから改めて裏表紙のあらすじを読むと、あんなに食指が伸びないと思っていたあらすじが、「もう、そうとしか書けないあらすじだ、とんだ名文だ」としか思えなくなっていました。

「それぞれの孤独を生きてきた男女の過去を埋め織りなす、愛と再生のロマン」……これです。(どれ?)

恋愛モノではなく、過去と現在をつなぎ、孤独の穴を埋め、未来へ足を踏み出していく、男女の人生の物語だったのです。

なので、恋愛ものはちょっとなあと思うそこのあなた(?)も大丈夫。安心して読みましょう。
思わず生きること、愛すること、育てることについて思いを馳せることになる、静かな名作でした。
ドーン!バーン!みたいなエンタメを求める方、あんまり小説で考えさせられたくはないなあ、という方には、あんまり向かないかもしれませんね。

以降、ネタバレ感想が続きます。未読の方はご注意くださいね。

ネタバレ感想:こんな愛の形があるなら

往復書簡という形態が良かったな。

解説文の中で、「電話が普及した時代の中で、往復書簡でしか成立し得ない状況を見事に描き出した」(意訳)みたいなことが書かれていて、目から鱗でした。

確かに、偶然再会した離婚相手って、連絡の取りようが無いものな!
電話どころか、LINEやSNSなどコミュニケーションの手段が更に変容したこの時代であっても、敢えて往復書簡でしか為しえないコミュニケーションのあり方って何なんだろう?と思わず考えました。
往復書簡の必然性とは何だろう?
手紙という形態そのものが、今の時代では一つのロマンなのだなあ、と。

本の内容について言えば、本作、下手に不倫とかに走らないのが本当に良かった、というのがまず思った感想でした。笑

序盤で亜紀さんが「夫は3ヶ月間渡米しており居ません」とかフラグ立ててくるものだから、その時は思わず「昼顔か…?」と警戒してしまったよね。

不倫相手に無理心中を起こされる、という最悪の事態に直面しながらも、心の奥底では靖明さんのことを愛していた亜紀さん。

それでも、建設会社社長の娘婿として次期社長と見込まれていた社会的立場が、二人を離婚へと追いやってしまいます。

現社長であり亜紀さんの父親も、娘を思い離婚に至るよう手を回したのですが、再婚した亜紀さんの結婚生活が上手くいっていないこともあり、離婚させたことを悔やむ様子。

愛し合いながらも離婚した、奥さんは再婚しているが再婚相手は不倫している、元旦那はヒモ化しているが独身のまま…という状態だけ並べ立てれば、「昼顔じゃん!」と思いそうなものですが、そうならないのが、本作の良かったところだなと。

すなわち、亜紀さんは障がいを持つお子さん(清高さん、いい名前ですね)が何らかの職業に就けるよう懸命に育てるという決意に燃え、ヒモでクズと化した靖明さんは、無口で大人しい女性だと思っていた寄生先の女性(令子さん)が実はナニワど根性で起業を企てるたくましい方で、令子さんに引っ張られて一生懸命働き始めた靖明さんの様子を知った亜紀さんは、令子さんは靖明さんにとって掛け替えのない人で、その商売の繁盛と、靖明さんのしあわせな未来を永遠の宇宙に祈り、その往復書簡を読んだ令子さんは泣きに泣く、という三人の関係性が、とても強くて美しいものだと思ったのです。

あなたが音を上げて、やりかけたお商売を投げ出してしまいそうになるたび、令子さんが助けてくれるでしょう。そんなときになって、初めて底力を見せる女性であることでしょう。私、一心にお祈りいたします。私は信仰を持っておりませんから、何に祈ったらいいのかわかりません。でも祈ります。そう、この宇宙に祈ります。お商売の成功と、あなたのしあわせな未来を、この果てしない永遠の宇宙に祈ります。」

P234より

亜紀さんと靖明さんは、愛し合っていた夫婦から、それぞれの人生を力強く歩き出す、いわば同志のような、戦友のような関係性へと変わっていったのだと思います。

亜紀さんと令子さんも、会ったことは無いけれど、互いが互いを尊敬するような感情を持っているのだと思います。この2人も、形容するなら戦友になるんじゃないかと。

ともすれば、ドロドロの恋愛泥仕合にもつれ込みそうなところを、過去と未来を織り成し、人生の不思議と明るい展望を描き出したところが、本作の素晴らしいところだなあ、と思いました。

夫婦の愛情から、より一層深まった親愛へ。
こんな力強い愛の形があるのだな、と励まされる気持ちがしました。

それにしても、元々は靖明さんの不倫が原因なわけだし、再婚相手の勝沼も不倫してて(しかも3歳の子供まで!!!!!やめろ!!!!)、亜紀さん流石に男運が無さすぎるな…と思ってしまった。笑

不倫、ダメ絶対。

最後までお読みいただき、有り難うございました!読書の秋、皆さんも良い読書ができますように☺