古代文明と裏社会の血塗られた祝宴「テスカトリポカ」に魅せられて

ダヴィンチさんのネット記事にて、紹介されていた文言があまりにもつよつよだったので、これは読むしかないなと思い、読み始めたら最後、一気読みでした。

わたしが読んだのはこちらの記事です!

麻薬密売×臓器売買×アステカ神話! メキシコと川崎を血塗られた儀式でつなぐ、超弩級クライムノベル

麻薬密売、臓器売買とアステカ神話!?
メキシコと川崎が血塗られた儀式でつながる!?
なにこの荒唐無稽な設定!めちゃくちゃ面白そう!!

結果、2021年2月末にして早速今年のベスト10に入りそうなほど、怖くて噛みごたえのある秀作でした。

ということで、まずはあらすじからご紹介していきます。

あらすじとざっくり感想

公式のあらすじはこちら。

メキシコのカルテルに君臨した麻薬密売人のバルミロ・カサソラは、対立組織との抗争の果てにメキシコから逃走し、潜伏先のジャカルタで日本人の臓器ブローカーと出会った。二人は新たな臓器ビジネスを実現させるため日本へと向かう。川崎に生まれ育った天涯孤独の少年・土方コシモはバルミロと出会い、その才能を見出され、知らぬ間に彼らの犯罪に巻きこまれていく――。海を越えて交錯する運命の背後に、滅亡した王国〈アステカ〉の恐るべき神の影がちらつく。人間は暴力から逃れられるのか。心臓密売人の恐怖がやってくる。誰も見たことのない、圧倒的な悪夢と祝祭が、幕を開ける。

Amazonより

要素が多すぎて「??」となりますよね。分かります。わたしもです。

物語は1996年のメキシコ、シナロア州の首都クリアカンにて、17歳の少女ルシアが街から逃げ出す場面から始まります。

メキシコという国について、料理以外の文化に触れたことがほぼ無くて(ディズニーの「リメンバー・ミー」を今度見てみようと思っているくらい)、地理にも疎いのでGoogleマップ貼っときますね。クリアカンってこんな場所なのね。

この少女の逃亡が、作中きっての存在感でわたしの心をがっちり掴んだ土方コシモくんの誕生につながっていきます。

このね、ルシアちゃんの逃亡劇からして、もうすごいんだから。(誰?)

彼女が生まれ育ったクリアカンは、州都でありながら麻薬カルテルに支配されていて、ナルコと呼ばれる麻薬密売人が跋扈し、住民は戦場のような緊張感を常に強いられている。

ルシアの兄は貧しい両親に仕送りをするため、メキシコからアメリカへ不法侵入を試みるが、麻薬密売人が張り巡らせたネットワークを掻い潜り、売人の手を借りずにアメリカへ渡ろうとした結果、見せしめとして売人に惨たらしく殺され、晒されてしまう。

1996年の日本ってどんな感じだったかな…と思わず気になって調べてみましたが、O-157が流行したり、安室ちゃんが大ブレイクしたり、ポケットモンスターの赤・緑が発売したり…色々あったにせよ、全般としては平和でイケイケ(古)な印象のある時代ですよね。

そんな時代に、地球の裏側のクリアカンは、(もしかしたら今もなお)暴力で埋め尽くされていたという事実にまず驚いてしまう。そんなメキシコの荒廃した空気や、暴力と憎しみの連鎖が、もし平和ボケした日本に襲いかかってきたら…

そりゃもう一溜まりもないだろうな……警察なんかじゃ対処しきれないだろうな……
と、容易に想像が付きますよね。

そんな圧倒的な暴力の塊、麻薬カルテルの元締め、災厄のようなお父さんが、(作中でずっとスペイン語で父親を意味するパドレと呼ばれているので、ついお父さん呼びしてしまう)川崎に上陸してしまうのです。こわすぎるだろ。

という感じで、読み手の好奇心を絶妙にくすぐるキーワードを散りばめながら、(麻薬、メキシコマフィア、アステカ神話…川崎…)(実家が近いので…川崎…)舞台はメキシコからインドネシア、日本へと転々とし、癖の強い登場人物たちがしっちゃかめっちゃか動き回ります。

内容がえげつなく怖いのでダークエンタメと言っていいのか迷いますが、個人的にはダークエンタメ超大作!という印象でした。

そんな作品が読みたい方は、面白く読めると思いますよ。

以降、ネタバレ感想が続きます!未読の方はご注意くださいね。

ネタバレ感想

ずっとまだまだ序盤みたいな雰囲気でしたよね

ずーっとパドレ(バルミロ)と末永がビックなビジネスの仕込みをしてて、実際にビジネスが始まったのはⅣ章からだったから、中盤が少し冗長に感じられたかな。

中盤を過ぎてもまだ悪のアベンジャーズが全然揃わなくて、おいおいもしかして尻すぼみで終わるんじゃない…?俺たちの戦いはまだ始まったばかりエンド来ちゃう…?と読んでて少し不安に思いました。

(佐藤究さんが初読みだったので、傾向がよく分からなかったのも不安の要因かも。しっかり締めるタイプの方で良かった)

そんな不安もまあ杞憂に終わってよかったなという感じなのですが、Ⅳ章から一気に暗黒の資本主義…ダークキャピタリズムが開花し、爆発したと思ったら、これまた一気に収束して…、終盤のスピード感がすごかったです。

もっとバルミロたちが悪事をばら撒いていくところが見たかったな。おそらく、ビジネス立ち上げから割と早々に壊滅してしまったと思うから。もちろん被害者候補だった子どもたちが多く助かった方がいいのだけども。

描かれたのは“悪”のバージョンアップか

それにしても、山永が描き出した臓器売買ビジネス、すごくよく出来てましたよね。本当にこういうビジネスが会ったとしたら、現実的に摘発するのも難しいだろうと思う。無戸籍児という法の穴を利用しているのだから。

麻薬売買のネットワークを活かして無戸籍児をシェルターに連れてきて、健康状態を管理し、幸せな記憶として日記を書かせ、海外に養子縁組が見つかったと言って連れ出し、臓器を摘出する。
違法な臓器移植手術を望む金持ちは、ペットに血統を求めるように、“日本で健康に育った子どもの臓器”に喜んで大金を払う。

顧客の心理を熟知した、いわば“マーケットイン”な発想に驚かされると同時に、まさにこれからは、ビジネスという観点から見てもよく練られた犯罪、というものがどんどん増えるのだろうなという予感がしました。

オレオレ詐欺に代表される特殊詐欺がますます巧妙になるように、人間の心理や情報通信社会を逆手に取った、新たな悪のビジネスが台頭していき、これまで目に見えていた“みかじめ料”のような恐喝・借金取り立て・暴力による犯罪が、取って代わられるんじゃないかと思った。

なので、組織を家族に見立て暴力による支配を続けるバルミロに対し、山永が水面下で反発するシーンは、まさに悪の世代交代、あるいは悪のバージョンアップともいうべき場面だったと思う。

狡猾で用心深い山永は、バルミロが放った殺し屋の手から逃げおおせて、バルミロに反撃していたと思う。
コシモさえいなければ!

そうなんだよね。悪の世代交代だなんだとそれっぽく語ってきたことの全てが、コシモによってことごとく潰されていくのが、悲惨ながら痛快で、本作ならではのカタルシスだったと思う。

人間が必死に積み上げてきたものが天災によって無に帰すように、山永やバルミロの企みが、彼らがコントロールできない存在(=コシモ)によってゼロクリアにされていくところに諸行無常みを感じた。

きっとコシモは、アステカの神様の化身として顕現したのだと思う。人間の悪意すら丸ごと叩き潰す役割を与えられたのだな。そんな風に考えました。力こそパワーなんだ。

それでも、やっぱり一度生まれた流れはそう簡単には消えはしない。

悪の形はこれからもっと巧みに、鮮やかだと思うほどに、進化していくのだろうな。そんなことを考えさせられました。

終わり方も良かった

壮絶な仲間割れの末に悪党たちは死に絶え、お父さん(バルミロ)に撃たれて散ったものの自らの良心に寄り添ったパブロの娘の元にだけ現れたコシモ、その後、彼の姿を見た者はいなかった…エンドでしたね。

(相変わらず運転ができないようで、トラックで乗りつけた時にも助手席に乗っていたコシモくん。運転席には誰が居たんだろう)

良くも悪くも綺麗すぎるけど、読者のほぼ全員がコシモファンになっているだろうから、この終わり方で良かったと、大半の人が胸を撫で下ろしただろうなと思う。もちろんわたしもその一人です。

それにしても、コシモくんすごく良いキャラでしたよね。
彼が望めば、そして環境が少しでも違えば、世界一のバスケットボール選手にも、ファンが新作を待ち望む職人にもなれたはずの、文字通り原石たる存在。
磨かずともそれ自体に計り知れない価値のある鉱物のような輝きを持ったキャラクターでした。

一度失った家族をお父さん(バルミロ)によって与えられながら、テスカトリポカの正体にまつわる解釈…皆既日食…を順太くんに与えられたことをきっかけに、二人の道が分たれていくのがなんともドラマチックでしたね。

(最凶コンビがメキシコに返り咲き、恐怖の時代を築いていくアナザーエンドもあり得たはず。その光景も見てみたかったな)

表と裏の薄皮一枚分のスリル

本作で下敷きになっていた社会問題を、よく知りもしないのに“リアルだ”と感じさせるところに、著者の構想力と筆力を感じました。

もちろん普段遭遇する機会なんて無いけど、麻薬はわたしたちの身近なところにあるのだなと改めて思った。経理課長の立場を失いたくなくて、臓器を売りにインドネシアにやってきた山岸は、きっと東京のどこかに、もしかしたらわたしたちの職場にいるのかもしれない。

半グレ、ダークウェブ、合成麻薬、暴力団…ニュースでは目にするそれら影の存在が、資本主義の中に確かに息づき、薄皮一枚のところに蠢いているのだなとゾッとした。

それと同時に、クライムノベルならではの仄暗い喜び…好奇心と、スリルを求める心が満たされる感じ…もたっぷり味わえたのも良かった。

本の中なのだから、どんな災厄もわたしの身には降りかかってこない。そう思ってふんぞり返って安心して読み進めつつも、ふとした瞬間、ページの向こうから悪魔の手が伸びてくるんじゃないかと、ほんの少し不安になった。そのくらい怖くて、怖いからこそ面白かった!

読み終えて、こうやって感想を書き綴っていると、もっとそれらの社会問題の本当のところを知りたいと考えるようになりました。犯罪系のノンフィクションを読んでみたくなったな。

それから、アステカ文明についても知りたいな。世界史受験のくせにインカとアステカとマヤがごちゃ混ぜになってしまってるのだけど、ただただ残虐なだけに思える彼らの文明が、なぜそのように信じられてきたのかが気になりました。

アステカの人々が、太陽に夜に風に鏡に様々な動物に…、あらゆるものに神さまを見出す感覚は日本のアイヌにも似てるなと思いつつ、アステカ文明が圧倒的に血なまぐさいのはどうしてなのかしら。

彼らがオープンなだけで、日本の文化にもそういうところは、(全く無いとは思ってないけど)あったということなのかな。

おまけ:登場人物と組織のまとめと、所感

登場人物自体はそこまで多くないのだけど、国籍が多様なことと、大半の人がニックネームというかコードネームで呼ばれるので、誰が誰で、何人で…という情報がごちゃごちゃになって、頭の中で人物を思い浮かべることが難しかったです。

なので、今読み途中で混乱している方、読み終えたけどあれってなんだったかな…?と思う方の参考に、登場人物をまとめていきます。

◆人物編

ルシア・セプルベダ:コシモのお母さん。1996年で17歳だったので、1979年生まれですね。アメリカに渡ろうとして麻薬密売人に殺された兄の姿を見て、北(アメリカ)に向かうのでは無く南に行くことで生まれ故郷から逃げ出す。1998年に来日、観光ビザで入国したため怪しいお店で働くことを余儀なくされる。シガーバーで知り合った土方興三を頼り、結婚することに。コシモを産んだ後はクラブで働きながら麻薬(氷(イエロ)と呼ばれる覚せい剤メタンフェタミン)に溺れ、最後は土方興三を殺したコシモを、かつて兄を殺した麻薬密売人だと錯覚し、コシモに襲いかかり、コシモに殺される。コシモが小遣いをせびって怒鳴られて喜んでいたという描写、薬をやっていない時は本当に美しいという描写、それぞれ切ないね。

土方興三:川崎の指定暴力団<石崎心道会>の幹部。ルシアがお客さんからもらった指輪を奪おうとしていたところに現れたコシモに、体格差を笑われたことで逆上し、コシモのバスケットボールを包丁で刺し、パンクさせたことから、コシモの怒りを買い殺される。神奈川県警の組織犯罪対策本部吉村警部は土方興三と同年代であり、彼の述懐によれば、土方興三は横浜市鶴見区で過ごした中学時代に相撲を経験、川崎市の高校に進学するとアメフトをはじめ、ランニングバックとして関東地区で名を知られる選手となった。喧嘩で強いことでも知られ、“酒の入った状態で補助なしのベンチプレスで150キロを挙げる”などの逸話が当時流れていた。アメフト推薦で大学に進学するはずだったが、高校三年で大麻所持が見つかり逮捕・推薦取り消しになった後、土方興三は指定暴力団の一員となった、とのこと。全然同情の余地もない死に方だし、好きになれるはずもない人物ではあるけど、きっと興三が育った家庭環境も相当アレだったんだろうな、と推察する。悲しみの連鎖の初めの1ピースは、常識の範疇での“異常”なのだろう。

土方コシモ①:通称・断頭台(エル・パディブロ)。正式な表記は土方小霜、2002年3月20日午前4時8分、体重4300グラムで生まれる。母親はスペイン語ばかり教え、日本人として地元の小学校に入学したが授業についていけず不登校になる。育児放棄に遭い、9歳で鶏肉を茹でて塩を振って食べることを覚え、以降茹でた鶏肉ばかり食べるようになる。11歳になるころに身長は170センチを超え、12歳で身長180センチを超える。公園で知り合った車椅子の老人にバスケの存在を教えられ、ルールを理解しないまま公園で練習をしている様子を見た地域の小学生に<ゴーレム>というあだ名を付けられ都市伝説化する。

(このゴーレムの噂とか、コシモに絡んで半殺しの目にあう高校生が言っていた<懲役太郎>とか<ウルトラさん>の愛称とか、学校の怪談的な、口裂け女的な恐ろしさがあっていいよね)

土方コシモ②:13歳の時に両親を殺し(当時の身長は188センチ)、2015年に相模原少年院に入所。17歳となった2019年に少年院と更生保護施設から<かがやくこども>に引き取られ、パブロの工房で働き始める。この時の身長は202センチ、体重104キロ。電気ドリルによって放たれた闘犬を撲殺したことでバルミロに見出される。ちなみに、バルミロと会った時の身長は204センチ。

「おまえがドゴを殺したことを、おれは怒っていない」とバルミロは言った。「だがコシモ、あのドゴを素手で殺したことで、おまえの人生は大きく変わる。おれと会っていることで、もう変わってしまっている」
(略)
「コシモ、おまえは今日からおれたちの家族(ファミリア)だ。神に捧げられる電気ドリル(エル・タラドロ)の最期をおれたちと見届ける。その前に下に行って、食事をするといい。チャラータ、マンモス(エル・マムート)、ヘルメット(エル・カスコ)と会ってこい。わかるか、コシモ?おれたちはーー」
おれたちは家族だ(ソモス・ファミリア)。

P391〜392より

(この場面、かっこいいけど絶望的な気持ちにもなる。コシモくんの運命が、厳しい方向に転がってしまったことが悲しくて)

土方コシモ③:バルミロファミリーの殺し屋として訓練を受け、18歳の時には身長206センチ、体重118キロに。順太と面会した際には、身長208センチ、体重130キロ超、体脂肪8.8%。

カサソラ兄弟:長男ベルナルド<ピラミッド(エル・ピラミデ)>、次男ジョバニ<ジャガー(エル・ハグワル)>、三男バルミロ<粉(エル・ボルボ)>、四男ドゥイリオ<指(エル・デド)>の4人。敵対するドゴ・カルテルからドローンを使った空爆と襲撃を受け、長男と次男と四男、兄弟の家族たちは全員死亡。三男のバルミロは身一つになりながらドゴ・カルテルの襲撃から逃れ、インドネシアへと渡ることになる。

リベルタ:カサソラ兄弟の祖母。名前はスペイン名で、本当の名前はテスカキアウィトル(ナワトル語で鏡の雨)。ベラクルス州カテマコに生まれたインディヘナ(先住民族のこと、インディオと呼ばれていたが差別的意味合いが含まれているため現在はインディヘナと呼ばれることが一般的らしい)で、生まれ育った宇村ではアステカの儀式が受け継がれている。貿易会社社長の白人カルロス・カサソラに見初められ、村を出て結婚する。結婚後もアステカの神々を捨てず隠れて儀式を行なっていた。1男2女を産み、平穏な暮らしをしていたが、夫のカルロス・カサソラが狂犬病によって死に、イシドロが貿易会社を継いだ後、5人の孫(=カサソラ兄弟)が生まれたが、末子のウーゴが夫と同じ狂犬病で死に、それらの命日がアステカの暦の意味と符号することから、アステカの神々の教えに目覚め、残った4人の孫たちへ、積極的にアステカ文明を伝えていく。

イシドロ・カサソラ:リベルタとカルロス・カサソラの息子。父親の死後にカサソラ商会を継ぐが、甘やかされて育った奢りなどから、商品の仕入元との断絶が生まれ、経営が傾いたところを麻薬カルテルにつけ込まれ、麻薬の運輸業に手を染めてしまう。麻薬運搬でのミスにより麻薬カルテルに殺害され、屋敷の前に死体を放置されているところをバルミロが発見し、リベルタと4人の孫は、アステカの儀式に従いイシドロの心臓をえぐり出し、顔の上に載せ、風の笛(エエカチチトリ)を吹き、イシドロが天上界に行けるよう送り出した。

バルミロ・カサソラ:通称は調理師(エル・コシネーロ)、ペルー人のゴンサロ・ガルシアという偽名を用いることもある。また、来日した際は野村からペルー人のラウル・アルサモラ名義の偽造パスポートと在留カードを受け取っている。

末永充嗣:通称・蜘蛛(ラバラバ、インドネシア語)。ツーブロック、黒縁メガネ、東洋人にしては大きな二重瞼、身長約165センチ。ジャカルタで臓器売買の密売コーディネーターを行なっているところでバルミロに出会う。元々は優秀な心臓血管外科医だったが、野村から仕入れたコカインを摂取した状態で車を運転した際にひき逃げを行い、捜査の手を逃れるため、そのまま東南アジアに逃走してきた。

戴圭明:ダイ・グィミン。ジャカルタ在住の32歳の中国人。中国黒社会の組織の一つ、<919(ジゥ・イー・ジゥ)>の構成員。山垣の腎臓を横取りしようとし、バルミロの拷問を受け死亡。

山垣康:ジャカルタに臓器を売りに来たサラリーマン。39歳で港区に本社がある防犯機器メーカーに勤務する経理課長。35歳でダークウェブを通じで合成麻薬MDMAに手を出す。借金をする代わりに腎臓を売ることで(借金・自己破産で経理課長の地位を失うことを恐れた)麻薬を買う資金を得るため、ジャカルタにやってきた。

野村健二:通称・奇人(エル・ロコ、スペイン語)。元々は関西の大学病院に准教授として勤務する麻酔医師。医療用薬品を売却することで資金を得ていた。コカイン中毒に陥り、また横領が発覚し医療界から追放されて以降は闇医師として川崎に拠点を置いている。

郝景亮:ハオ・ジンリャン。新南龍の幹部、28歳。殺手を経て組織の財務を担う存在。登山が趣味で、末永と親しくなる。

ズルメンドフ:グントゥル・イスラミの司令部所属。末永が戴の死体から心臓を取り出す手術に立会い、末永の描く臓器売買ビジネスに乗ることを決めた。

宇野矢鈴:通称・マリナル(アステカの歴史に残る呪術師マリナルショチトルに由来)。東京都品川区にある「らいときっず小山台」に務める保育士。勤務する保育園が園長のパワハラ問題で炎上している。子どもを愛し守りたいという使命感とコカイン吸引を自分に赦すという矛盾を抱えている。野村の誘いでNPO<かがやくこども>の職員へと転職する。この矛盾が、すごく人間らしい弱さで胸が痛くなる。野村が矢鈴さんを分析するシーンも「いてててて…」となった。自分の弱さを突かれているようで。

 短い会話でわかる。野村は思った。この女は自分に自信がない。自尊心の低さに苦しみ、他人への劣等感のなかでもがいている。それでいて心の奥底では、「自分にはもっと価値がある」と思っている。「何か別のことができるはずだ」、と。

P236より

増山礼一:川崎に拠点を置く甲林会仙賀組の幹部。ホームレスや多重債務者を野村の元に送り、腎臓を摘出させることを仕事としていた。山永の計画により、<かがやくこども>の代表理事に就任する。

:シア。通称・灰(ネシュトリ、ナワトル語)。ベリーショートの黒髪、身長174センチ、縁なしの丸眼鏡。新南龍からシェルターに派遣されている。新南龍に入る前は香港警察の特殊部隊に所属していたが、抵抗した容疑者を不必要に射殺したことがきっかけで新南龍を頼り無罪を勝ち取ったのち、新南龍の見習いとなった。

崔岩寺の住職:通称・十字架(ラ・クルス)。仙賀組と縁が深く、複数の裏社会ビジネスに積極的に関与しており、寺の地下をシェルターとして提供している。

:本名は不明、通称はエル・パリル。高津区でプロパンガス販売の有限会社を経営する49歳男性。競馬と競輪に目がなく、野村からコカインを買う常連客。プロパンガスボンベの中に死体や臓器を隠して運ぶ運び屋。

座波パブロ:通称・陶器(ラ・セラミカ)。正式な本名は清勇・パブロ・ロブレド・座波。ペルー人の父と日本人の母を持ち、那覇で生まれ育った。沖縄の大量生産ナイフの製造会社で働きながらナイフメイカーとしての修行を積む。沖縄に妻と娘を残し出稼ぎのため川崎にやって来たものの職が見つからずにいたところをバルミロに見出され、工房で様々な加工を行うことに。コシモの師匠となり工芸の技を教える。

伊川徹:通称・チャターラ(スペイン語でスクラップを意味するラ・チャラータに由来)。バルミロファミリーの殺し屋。31歳、身長178センチ、体重154キロ。ノーギアのベンチプレスで290キロ、ワンハンドアームカールで左右どちらも105キロを挙げる怪力を持つ。かつて映像製作会社のカメラマンとして働いており、交通事故現場を撮影することに熱中していた。同行していたチーフカメラマンを殴殺し11年服役した後、宮田の経営する自動車解体場で働く。

宮田正克:チャラータが働く自動車解体場(ヤード)の社長。高知県生まれの元消防士、野村とは54歳の時に知り合い、消防署を早期退職後にヤードを立ち上げる。仮釈放中のチャラータを雇い入れるが、チャラータの圧倒的な暴力に支配されている。

フラビオ・カワバタ:通称・電気ドリル(エル・タラドロ)。19歳の日系ブラジル人4世、身長168センチ。母親に連れられ14歳で来日する前はリオデジャネイロで暮らしていた。チャラータの強さに憧れ、自分もバルミロに認められたいという思いを持っていた(生まれつきの近眼のため、銃の扱いを許されていなかった)。このため、ヤードで飼育してした闘犬ドゴをコシモに襲わせたところを銃で救い、自分の強さをファミリーに認めさせる計画を立てる。結果として、闘犬ドゴに襲われ、ファミリーの裏切り者として儀式のいけにえとなり、死亡。

仲居大吾:通称・マンモス(エル・マムート)。バルミロファミリーの殺し屋。29歳、身長191センチ、体重123キロ。川崎市の消防士として働いていたが、26歳の時に大麻所持および使用の容疑で逮捕され消防署を懲戒免職になる。出所後は足立区を拠点とする半グレグループに所属。

大畑圭:通称・ヘルメット(エル・カスコ)。バルミロファミリーの殺し屋。26歳、身長177センチ、体重79キロ。相模原に拠点を置く暴走族の元リーダー、引退後は板金工として働く。傷害致死罪により6年服役した後、出所後はヤードで開催される喧嘩賭博の胴元となる。

尾津利孝:神奈川県警組織犯罪対策本部、国際捜査課に所属する警部補。裏社会と通じる汚職警官。

後藤和政:神奈川県警組織犯罪対策本部、国際捜査課に所属する巡査部長。尾津のことを信頼・尊敬している。

仙賀忠昭:仙賀組組長。新南龍、グントゥル・イスラミとの交渉に登場。

谷村勝:仙賀組若頭。同上。

タム・ホア:本名不明。通称はベトナム語で災害を意味するゼブブスのリーダー。27歳のベトナム系日本人。

森本中秋:ゼブブスのナンバーツーにして通信指令役の26歳日本人。最初にバルミロらの餌食となった。

尾野垣順太:シェルターに引き取られた無戸籍の9歳の少年。身長131センチ、体重26.7キロ。血液型はAB型。千葉市でシングルマザーの母親と共に暮らしていたが、母親がメタンフェミん中毒に陥り育児放棄を受けていた。(母親は脱水症状で死亡)

ドミンゴ・エチェベリア:ソノラ刑務所の受刑者。ドゴ・カルテルのリーダー。

◆組織編

ロス・カサソラス:メキシコ北東部タマウリパス州ヌエボ・ラレドを舞台に麻薬戦争を繰り広げていた麻薬カルテル。ベラクルス出身のカサソラ兄弟が立ち上げ、20年かけて巨大化させた組織。麻薬戦争において劣勢を強いられ、4兄弟(生まれた時は5人兄弟)の内3人が殺され、壊滅状態に陥る。

ドゴ・カルテル:上記麻薬戦争においてロス・カサソラスを圧倒した新興勢力。リーダーはメキシコ人ではなくアルゼンチン生まれの移民。組織名は、アルゼンチン産の闘犬<ドゴ・アルヘンティーノ>に由来。

グントゥル・イスラミ:インドネシア語で「イスラムの雷鳴」を意味する組織。山垣の腎臓の買い手として登場。ジェマー・イスラミアの構成員が立ち上げた。

ジェマー・イスラミア:テロ組織<ダルル・イスラム>が分裂し生まれた組織。アラビア語で「イスラム共同体」を意味する。

新南龍:シンナンロン。インドネシア生まれの若い中国人たちが作った組織で、ジャカルタを中心に勢力を急拡大し、構成員にはコモドドラゴンの入れ墨が掘られる。グントゥル・イスラミと密接な関係を持つ。

ゼブブス:川崎に拠点を置きながら東京での勢力を拡大している半グレグループ。ベトナム人の持つ東南アジア裏社会へのコネクションと、元地下格闘技の選手という暴力的なメンバーを持っていることが勢力拡大の要因。最新の通信技術に詳しく、複雑な暗号を駆使するため実態は警察にも暴力団にも掴めていなかったが、バルミロが差し向けた殺し屋たちによって壊滅状態に陥る。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!
佐藤究さんの本、別のものも読んでみようと思いました。次はもともと気になっていた「QJKJQ」かな。