西加奈子さんの「サラバ!」を斜に構えながら読んだら超最高だった話

2014年に発売された本作。
直木賞受賞作品でもあり、当時CMも沢山流れて居たので、記憶に残っている方も多いでしょうね。

又吉さんの「凄かった。西加奈子の全部がここにある」というナレーションが今でも思い起こされますが、
(いやでも、わたし西加奈子さん知らないしな…)
と思ったのもきっとわたしだけでは無いはず笑

よっぽど面白いんだろうなあと思いあらすじを調べてみたところ、それだけだと面白さがあまり伝わって来ず、その時は購入を見送ってしまっていました。

その後、たまたま図書館で見かけたことが、ようやく読み始めたきっかけです。最初に気になってから読むまでに5年くらいかかってしまいました(ヒエッ

読んだ感想を一言で表すなら、

看板に偽りなし!!!

ということでしょうか。もっと早く読めばよかった。万人にオススメできる名作じゃないか!

あらすじの地味さめげずに、特に、

芯が強めな第一子を持つ、すべての第二子あるいは第三子(もちろん第四子も!)が読むべき小説

ということを強く言いたいです。
そう、そこのあなたです。そして、このわたしもです。(お前もかーい)

一応、あらすじを紹介しておくとこのような感じ

あらすじ

サラバ―――その力の途轍もなさに彼はまだ、少しも気づいてはいなかった。
1977年5月、圷歩(あくつあゆむ)は、イランで生まれた。父の海外赴任先だ。チャーミングな母、変わり者の姉も一緒だった。
イラン革命のあと、しばらく大阪に住んだ彼は小学生になり、今度はエジプトへ向かう。後の人生に大きな影響を与える、 ある出来事が待ち受けている事も知らずに―――。
「さくら」「あおい」「きいろいゾウ」のベストセラー作家が、 作家生活十周年を記念して放つ記念碑的長編!

ほら、なんていうか…地味というか…笑

冒頭にも少し書きましたが、kindle版があれば旅行のお供に読んでみようかな〜と思って調べた時、あらすじを見てこう思いました。

イランとエジプトかあ…まあ、いいかなぁ…

と。ちょっと自分から遠い出来事のように思ってしまったのです。(そしてKindle版は無かったので、ますます本作から遠のいたのでした)

そうでは無い!そうでは無いんだよ!とあの頃の自分に言いたい。

もし、わたしと同じ理由で「別にいいかな〜」と思っている方が居たら、このようにお伝えしたいです。

エジプシャンの国民性、ほんと愛おしいから大丈夫。

そしてこれは、傍若無人な姉の元に生まれ「いい子」であることを選んだ弟の人生に寄り添う物語で、思わず「これはわたしのことだ」「わたしのことを描いてくれている」と胸に手を当ててしまう普遍さに充ち満ちている物語だったのです。

心当たりのある人は是非とも読もう。

ということです(長い)。

エジプシャンの愛しい国民性は、わたしが説明するより作中から引用させていただいた方がよく伝わると思うので、ちょこっと紹介します。

 エジプシャンは子供が大好きだ。他人の子だろうが何だろうが、子供を見かけると頭を撫で、抱き上げ、お菓子をやる。子供たちはそれを知っているから、世界は自分たちのものだとでも言わんばかりに、我が物顔で街を徘徊している。彼らは、あらゆる場所で僕の母に甘え、僕の父の手を取り、そして僕ら姉弟と勝手に背比べをし、お菓子をねだった。 エジプシャンのこのような人懐っこさは、寂しがりから端を発している。元々、家族をとても大切にする国民性なのだ。例えば、一人暮らしなどはありえない。家族の誰かがたった1週間の旅行に行くというだけで、空港に家族で押し寄せ、泣きながら見送るような人たちなのだから。

ハードカバー上巻P156より

ほらもう、何て可愛らしい!笑

本作の魅力とは

小説の醍醐味を味あわせてくれる傑作、というのが読み終えた感想でした。

垰歩(あくつあゆむ)くん(彼は1977年生まれだから年上だけど)の人生に寄り添い、時間を忘れて、時間を飛び越えて読み耽るこの喜び!

小説っていいね!と心から思えました。

特にエジプトの描写がとても良かったです。
わたしは大学の卒業旅行でトルコとエジプトに行ったことがあったので、意識するともなくその時の風景を思い浮かべながら読んでいましたが、行ったことのない人でも、多分わたしと同じ映像が頭の中に浮かぶはずです。

眩しいほどの光、砂っぽい道、乾燥した壁、エネルギッシュな子供たち、のんびりした大人、道をうろつく犬…

読み終えて、作者のプロフィールを読んで納得。
イランで生まれ、大阪で育ったとのこと。
西加奈子さんのこれまでの経験、見てきた風景、匂いや音、色んなものが、きっとたくさん詰まった作品なんだろうなと思いました。

出版社の宣伝文句にもある通り、本作が代表作であり最高傑作になってしまうのではないかと、すごく余計なお世話ながら心配してしまった。

この空気感、このリアリティは、一生に一度しか書けないのではないかなと。

私小説混じりの文章は、その町の匂いや日差しまでが伝わってきて、没入感も格別なのだけど、それは作者の経験を切り出しているからに違いなくて、そうではない小説は、どうなってしまうんだろう?と思ってしまったのです。
(頭の中に、「僕たちはみんな大人になれなかった」を思い浮かべながら)

確かめるためにも、他の作品も今度読んでみようかなあ、と思いました。

面白かった人はこんな作品もおすすめ

本作の特徴として、徹底した自分語りがあると思います。
ずーっと歩くんの一人称で語りが続くから、彼の心理や思考を、読み手は深く理解することができると思うのです。

そんな誰かの人生を追体験するような、濃厚な一人語りタイプの小説が好きな人には全力で「薔薇のマリア」をお勧めします!

色んなタイプのキャラクターが登場するので、誰でも、誰かしらに共感することが出来ると思います。

※癖が強いキャラクターばかりだから「これはわたしだ」と思うことは絶対ないと思うけど笑

普段は表に出せない自分の醜い感情、やり場のない気持ち、自己嫌悪…そういう弱さ、に、共感を覚えることが出来るはず。

物語のボリュームが本編21巻+外伝5巻とものすっごいので、それがそのまま沢山の登場人物の人生や、価値観、思考が溢れかえることになります。
読み応えすっごいよ。

群像劇として、伝統的なRPG風の物語として、あるいはSFとして…、あらゆる楽しみ方を、ライトな読み口で超ハードに描く作品です。

(合う合わないは、Ver0→1〜3巻で判断できると思うので、特にKindleでフェアやっている時などに軽率に買ってみたらいいと思う。それが、すごく大事な出会いになるかもしれないから!)

超すごいよ(語彙の消失)。
もうちょっとどんな話なのか知りたくなった方は、拙くて恐縮ですが、わたしが作った作品紹介ページがあるので、のぞいてみてください(ただしスマホは未対応なんだすまない)。
→ https://sunset-rise.com/maria

以下、印象に残った場面の紹介とネタバレ感想が続きます。
未読の方はご注意ください〜

名場面集&ネタバレ感想

(前略)様々な様子で和んでいるほかの家族たちを見て、初めて、僕たちは少しおかしいのかもしれない、と思った。だが、そう思うよりももっと深い場所で、僕は、だからどうなるものでもない、と思っていた。
 もう、生まれ落ちてしまったのだ。
 僕には、この可能性以外なかった。
 そんな言葉は、やはり知らなかったが、僕はその思いを経験していた。もしかしたら、すべての子供がそうだったのかもしれなかった。今ある環境がすべてで、それ以外の可能性はなくって、自分はずっとずっとここで生きてゆくのだと、思うより先に、ほとんど生存本能として身につけていることなのかもしれなかった。一方でスーパーマンになりたいとか、お姫様になるのだと強く思っているにもかかわらず、自分の世界には無限の可能性、無限の選択肢があるなんて、実は小さな頃は、思いもしないのだ。
 僕には、この家族しかいない。

ハードカバー上巻P59〜60

分かる気がするなあ…。
親たちはいつも子供に無限の可能性を期待して夢を託すけど、当の子供は、いつだって家族という狭い世界の中で、どう生き延びたらいいのか、どうやったら愛されるのか、 そればかり考えてるように思う。
それは確かに、ある種の生存本能なんだよな、きっと。

 ほとんど自分の体ほどに大切な友人と、世界一大きな河の河べりに座り、沈み行く太陽と、その光に染まる水面を見ている。ふたりは数週間後には別れる。それは永遠になるかもしれない。
 僕の心は、手に負えない感傷で、はち切れそうだった。「寂しい」、という言葉では収まらなかった。
 僕の気持ちはあらゆる感情の枠を超えて、どんどん拡散していた。ものすごい勢いで、ものすごい強さで。やがて僕は泣いた。自分自身の感情をどうしていいか分からなかった。声をあげて泣きたかったが、それでは足りなかった。僕は泣き叫ぶよりも、ずっと強い力で泣いていた。涙がぽろぽろと流れ、止まらなかった。顔を覆うことも苦しかったし、うずくまることも苦しかった。僕は腰かけたまま、ナイル河を見つけたまま、ただ泣いていた。自分の非力さに、世界の残酷さに、泣いた。

ハードカバー上巻P255

ほとんど自分の体ほどに大切な友人って、つよい…
精神的ホモセクシュアル、という単語がヤコブパートにて出てきたと思うんだけど、それも納得感あるなあ。
二人とも同性愛者ではないんだろうけど、仮に友情ってバロメーターが振り切れるほどの親愛を抱いたとしたら、それはもう殆ど同性愛と同義だよね。

「(前略)『あなたはこの彫刻を見るためにやって来たんですね』
 その言葉は半分間違っていたし、半分正しかった。私はこの彫刻を見るためにチベットに来たんじゃない。でも、来たのよ。私はここに来た。
 分かる?歩。
 私がここに来なかったら、この彫刻を見ることはなかったし、私の涙はなかったのよ。」
(中略)
「私が、私を連れてきたのよ。今まで私が信じてきたものは、私がいたから信じたの。
 分かる?歩。
 私の中に、それはあるの。『神様』という言葉は乱暴だし、言い当てていない。でも私の中に、それはいるのよ。私が、私である限り。」

ハードカバー下巻P250

「あなたが信じるものを、誰かに決めさせてはいけないわ。」

ハードカバー下巻P250

怒涛のお姉ちゃんターン。
長いことサナギだったみたいに、見事に羽化した貴子さん。
それは勿論とっても素晴らしいことなんだけど、歩が戸惑い、怒ってしまったのも分かるなあ(ずっと歩の気持ちに寄り添ってきたから、どうしても彼の味方をしたくなる笑)。

だって歩が自分を保つためには、お姉ちゃんはいつでも傍迷惑で非常識な人間でいなくちゃいけなかった。
お姉ちゃんが居たから自分はいつだって周りの調和を重んじ、周囲が望む姿を見せ続けてきたのに、お姉ちゃんがマトモになったら、じゃあ自分はどうしたらいいの?って。

歩は自分がどうしようもなくなっていること、身動きが取れなくなりつつあることをよく理解していた。
その上で、投げやりになっていたのだよね。
お姉ちゃんの言葉に心当たりがあったから、痛いところを突かれたくなくて怒ってしまった。
その痛みが、歩には必要だったんだよね。
この時のやり取りとその後の手紙がきっかけで、彼は踏み出し、歩いていくことが出来たのだから。

その痛みに向き合い、歩き出すことが出来る強さが、わたしにはあるかなあ、そんなことを考えてしまう。

それにしても、
「あなたが信じるものを、誰かに決めさせてはいけないわ。」
…名言だなあ。ちょっと今時じゃない話し方もいいよね。
これは単に信仰の話をしているのではなくて、「どのように生きるか」という話をしているんだと理解しました。

自分の生き方を自分で決める、自分の人生は自分で決める…

耳にタコが出来るほど使い古された言葉ではあるけど、その意味についてきちんと考えたらことはなかったな、ということに思い至りました。

そんなの当たり前でしょ?って思って聞き流していたけど、それだけ他人の人生を生きてしまう人が多いんだってことだよね。

その証拠に、じゃあ自分の人生を一言で表現しろとか、絶対譲れないものは何かとか問われたりしたら、わたしはヘラっと笑ってやり過ごそうと、してしまうんじゃないかな。

考えたい、考えないとなぁ。

 僕は、長い、長い時間を経てここに来た。
 僕とヤコブを隔てた、大きな、大きな時間の化け物は、でも僕たちを隔てているのではなかった。
 その化け物がいたからこそ、僕とヤコブは繋がっていたのだ。
 僕たちが、ここまで生きてきたことを、化け物は証明してくれているのだ。
 僕たちの背後にある大きな、大きな時間の化け物に、きっと背中を押されて、僕たちはここにいるのだ。河が流れるように、化け物が途絶えることがなかったから、僕はここにいるのだ。生きている。そして、生きているということは、すなわち化け物を信じているということでは、ないだろうか。
 僕は、生きている。 生きていることは、信じているということだ。
 僕が生きていることを、生き続けてゆくことを、僕が信じているということだ。

ハードカバー下巻P345

苦悩の果てに、歩が出会った神様「サラバ」は、時間の化け物は、でもわたしの中ではまだ消化できていない気がします。

誰かが望むように振る舞い、受け身のまま育ってしまうと、他の人にどう思われるか、そればかり気にしてしまう。
そうすると、そのうち自分の望みがなんだか分からなくなってしまう。そういうところが、わたしにも確かにある。

それは、誰かの人生を生きてしまっていて、自分の人生を生きてはいない、ということなのかな(作中そういう描写があったように思ったけど、見つけられなかった)。

歩くんは概ね順調な学生生活と華やかなライター生活を送り、(彼の基準で言えば)落ちぶれ、苦しんだ末に歩き出すことが出来た。

わたしに出来るだろうか。
そんな歩くんへの眩しさと、自分への益々の不安も抱きました。
そう思わせてくれた本作は、きっと誰かを支え、歩く強さを与えてくれると思います。

 読み始めると、僕はたちまち僕という輪郭を失い、ベリー家の家族に寄り添うことが出来た。共に笑い、共に怒り、共に涙を流し、ときに死に、そしてまた生き続けた。小説の素晴らしさは、ここにあった。何かにとらわれていた自身の輪郭を、一度徹底的に解体すること、ぶち壊すこと。僕はそのときただ読む人になり、僕は僕でなくなった。そして読み終わる頃には、僕は僕をいちから作った。僕が何を美しいと思い、何に涙を流し、何を忌み、何を尊いと思うのかを、いちから考え直すことが出来た。

ハードカバー下巻P350

読み終えてみれば、最初はとある少年のちょっと変わった遍歴を辿る物語で、猟奇的な姉というパワーワードと彼の受難を興味深く読んでいたはずなのに、いつしか、愛すること、信じること、生きること…
最高に普遍的なテーマへと鮮やかに移り変わっていくのだよな。

だからといって、最初から「この本は、こーんな普遍的なテーマですよ!」と言われたら、正直読むのを敬遠していたと思います。
お説教くさいのかな、とか思ったりして。

けれど、歩くんの人生に寄り添い、彼の思考をなぞりなぞった結果、それらのテーマが、とても自然に自分の中に落ちてきたのを感じました。

彼という人格を理解し、自分の近しい存在のように感じられるからこそ、彼の学びや気づきが、自分の中に深く刺さっていく。
「これは自分のために書かれた本だ」と、思わずうぬぼれるほどに。

初読みだったのだけど、すごかったなあ!西加奈子さん。
自信を持ってお勧めできる作品でした。

最後までお読みいただき、有難うございました!

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